演算子の固有値・固有関数の定義
一般に,演算子 A について,以下の式が成り立っているとします。
Aϕa(x)=aϕa(x)(2)
このとき,a を演算子 A の固有値,ϕa を演算子 A の固有値 a に対応する固有関数などと呼びます。(行列の固有値・固有ベクトルの定義と具体的な計算方法も参考にしてください)
以下では A はエルミート演算子であるとします。エルミート演算子が持つ性質を確認していきましょう。
性質1: ϕa が2乗可積分ならば a∈R
ϕa が2乗可積分 であるとは,∫d3xϕa∗ϕa が0でない有限の値を持つということです。
A はエルミート演算子であることより,(1)から
∫d3xϕa2∗(x)[Aϕa1(x)]=∫d3x[Aϕa2(x)]∗ϕa1(x)(3)
が成り立ちます。
ここで,ϕa1,ϕa2 はそれぞれ,エルミート演算子 A の固有値 a1,a2 に対応する固有関数であるとします:
{Aϕa1=a1ϕa1Aϕa2=a2ϕa2(4)(5)
(3)の左辺に(4)をそのまま代入して
∫d3xϕa2∗(x)[Aϕa1(x)]=∫d3xϕa2∗(x)(a1ϕa1(x))=a1∫d3xϕa2∗(x)ϕa1(x)(3-1)
が得られます。
一方,(3)の右辺に(5)を代入して
∫d3x[Aϕa2(x)]∗ϕa1(x)=∫d3x(a2ϕa2(x))ϕa1(x)=∫d3xa2∗ϕa2∗(x)ϕa1(x)=a2∗∫d3xϕa2∗(x)ϕa1(x)(3-2)
いま a1=a2=a であるとすると,(3),(3-1),(3-2)式より
a∫d3xϕa∗(x)ϕa(x)=a∗∫d3xϕa∗(x)ϕa(x)(6)
が成り立ちます。
ここで,ϕa は2乗可積分であることより,(6)式の両辺を ∫d3x∣ϕa(x)∣2=∫d3xϕa∗(x)ϕa(x) で割ることが許され
a=a∗
したがって,エルミート演算子 A の固有値 a は,対応する固有関数 ϕa が2乗可積分ならば実数となることがわかりました。
性質2: エルミート演算子の異なる固有値に対する固有関数は,それらが2乗可積分なら直交する
関数の直交性については,三角関数の積の積分と直交性での議論も併せて参考にしてください。
エルミート演算子 A の固有値 a1,a2 に対する固有関数 ϕa1,ϕa2 (これらは2乗可積分とする)をとってきます。(3),(3-1),(3-2)式より
a1∫d3xϕa2∗(x)ϕa1(x)=a2∗∫d3xϕa2∗(x)ϕa1(x)
∴(a1−a2∗)∫d3xϕa2∗(x)ϕa1(x)=(a1−a2)∫d3xϕa2∗(x)ϕa1(x)=0
が成り立っています。
いま,a1=a2 であるとすると,上式より直ちに
∫d3xϕa2∗(x)ϕa1(x)=0
がいえます。すなわち,ϕa1 と ϕa2 は直交していることがわかります。
【発展】ϕa が2乗可積分ならば,その固有値 a は離散的な値を取る
証明は背理法により示します。固有値 a が離散的ではない,すなわち a が連続的な値を取るとして矛盾を示します。
a が連続的な値を取るとき,ϕa もまた a についても連続であると考えることができ,このとき固有値 a+δa に対し,
{ϕa+δa(x)=ϕa(x)+δϕa(x)lima→0(δϕa)=0(7)
が成り立つと考えることができます。ただし,δa,δϕa は微少量であり,これらの(合計)2次以上の項は無視できるとします。
ϕa+δa は演算子 A の固有値 a+δa に対する固有関数であり,以下が成り立ちます。
Aϕa+δa=(a+δa)ϕa+δa
左辺に(7)式を代入すると
Aϕa+δa=A(ϕa+δϕa)=Aϕa+A(δϕa)=aϕa+A(δϕa)(8)
一方,右辺に(7)式を代入して変形していくと,(δa)(δϕa) の項は無視することができ,
(a+δa)ϕa+δa =(a+δa)(ϕa+δϕa)≃aϕa+(δa)ϕa+aδϕa(9)
が成り立ちます。(8),(9)式より,以下が成り立つことがわかります。
A(δϕa)=(δa)ϕa+a(δϕa)(10)
(10)式の両辺に左から ϕa∗ をかけ,全領域で積分を行います。
左辺は,エルミート演算子の性質および ϕa が2乗可積分であることより
∫d3xϕa∗[A(δϕa)]=∫d3x[Aϕa]∗(δϕa)=∫d3x(aϕa)∗(δϕa)=a∫d3xϕa∗(δϕa)(11)
と計算できます。
また,右辺は
∫d3xϕa∗[(δa)ϕa+(aδϕa)]=(δa)∫d3xϕa∗ϕa+a∫d3xϕa∗(δϕa)(12)
(11),(12)式より
(δa)∫d3xϕa∗ϕa =0
が成り立ちます。再び,ϕa が2乗可積分であることより
δa=0
であることがわかります。これは,a の(非常に近い)周りに固有値が存在しないことを示しており,固有値 a が連続的であることに矛盾します。
したがって,背理法により,ϕa が2乗可積分ならば,固有値 a は離散的であることがわかりました。