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クルックス管の実験を活用した陰極線の解明

更新日時 2021/05/31

今回は, 陰極線について解説します。

19世紀末に真空管内で陰極から陽極へ向かう放射線が観測され, それは陰極線と名付けられました。当時の科学者は陰極線の正体をつかむために奔走しました。

この陰極線の発見は, その後の電子の発見に大きく貢献しています。

本記事では, 陰極線の正体をつかむまでの道のりを順を追って説明することで陰極線への理解を深めていきます。

目次
  • 陰極線(電子線)とは

  • 放電現象について

  • 真空放電の特徴

  • 真空放電は蛍光灯/ネオンサインに応用されている

  • 真空放電管で気体が発光する原理

  • 真空放電管を用いた陰極線の発見

  • クルックス管の実験と陰極線の性質

  • トムソンが解明した「陰極線=電子」

陰極線(電子線)とは

まず, 陰極線とは次のように定義されます。

陰極線とは

真空管で観察できる陰極(-)から陽極(+)への電子の流れ

陰極線は電子線ともいわれる

陰極線について確認したところで, ここから陰極線が発見された道のりを解説していきます。

陰極線は放電現象の一種のため, まず放電現象に関する説明から始めていきます

放電現象について

19世紀中盤, ファラデー(英, 1791-1867)をはじめとした当時の科学者は放電現象に高い関心があり, 様々な実験を行っていました。

放電現象とは

本来電気を通さない物質に高い電圧を印加することで電流が流れる現象

放電現象は,気体放電真空放電にわけられる

ファラデーは放電現象に見られる光の明暗に疑問を抱きました。

気体放電とは

気体放電は, 文字通り気体中で起こる放電現象です。雷は自然界で見られる放電現象で, 落雷時の電圧は200万-10億V, 電流は1千-20万A もの高電圧かつ高電流なるそうです。

空気が乾いた時期に私たちが金属に触ったときに「バチっ」となるのは, 体内の静電気が放電されるためです。

気体放電の原理

電流は金属などの導体中の自由電子が動くことで生じます。本来, 気体中は自由電子がほとんどないため電流は流れません

しかし, 高い電圧を印加することでわずかな自由電子を無理やりに動かし, 原子同士を衝突させることで空気中の原子を電離させます。ここで, 電離した陽イオンが陰極へ, 電子が陽極へ流れることで気体放電が起こります

気体放電には高電圧が必要なため, 滅多に起きませんが, 圧力を下げていくと放電現象が起きやすくなります。それが真空放電です。

真空放電とは

次に, 真空放電について説明します。

真空放電の観察1

上図のようにガラス管内に電極を封入し, 空気を満たしたガラス管を用意し, 電極間に高電圧(数千V)を印加します。このままでは何も起こりません。

真空放電の観察2

徐々に管内の圧力を下げていくと放電現象が起こり, 電流が生じます。また, 管内は赤紫色に光ります。

このように低圧力状態で起こる放電現象真空放電といいます。

真空放電の特徴

真空放電の特徴を圧力と関連させながら, まとめていきます。

圧力 現象 名称
1×1051×10^5[Pa] × 放電現象 (高電圧で気体放電) -
1×1031×10^3[Pa] 真空放電が始まる。赤紫色※の細いひも状の光が発生。 -
1×1021×10^2[Pa] 光の縞模様が見える。 ガイスラー管
111×1021×10^{-2} [Pa] 赤紫色の光が観察できなり, 陽極付近で黄緑色の蛍光が見られる。 クルックス管(真空放電管)

※空気の場合は赤紫色。気体の種類で異なる。クルックス管における黄緑色の蛍光は封入されている気体の種類に関係なく, 観察することができます。

[補足] 黄緑色の蛍光は何かが光っているのではなく, 実際は電子が陽極付近のガラス管壁ぶつかって見えるものです。

また, 圧力を下げていくと真空放電が観察できるのは, 真空状態は気体分子のが少なく電子にとっての障害物がないためです。

真空放電は蛍光灯/ネオンサインに応用されている

真空放電は私たちの身の回りに大きく役に立っています。その例が蛍光灯やネオンサインです。

これらのガラス管内の気圧は, 1×1021×10^2 から 1×1031×10^3[Pa]に保たれており, 封入している気体の種類で発光する色が異なります。(以下参照)

気体 原子番号
空気中 - 赤紫色
He(ヘリウム) 2 黄色
Ne(ネオン) 10 赤色
Ar(アルゴン) 18 赤色~青色
Kr(クリプトン 36 黄緑色
Xe(キセノン) 54 青色~緑色
Hg(水銀) 80 青白

蛍光灯は水銀蒸気, ネオンサインはネオンなどの貴ガス(18族)が封入されているために光って見えます。

真空放電管で気体が発光する原理

真空放電における気体の発光の原因について少し解説します。難しい場合は読み飛ばしてもらっても構いません。

簡単な構造を持つヘリウムを使って解説します。

発光の原因

  1. ヘリウム原子は左図のような状態で安定しています。

  2. 真空放電が起こると,ヘリウム原子の外殻にある電子が高い軌道に遷移します(励起)。つまり, エネルギーが高く不安定な状態になります。(中図)

  3. ヘリウム原子は元の安定した状態に戻ろうと電子を元の軌道に戻そうとします。(右図)

  4. 電子が元の軌道に戻ろうとするとき, エネルギーを光として放出するため, 発光が起こります。

この放出される光の波長が違うことで, 観察できる光の色も異なります。

真空放電管を用いた陰極線の発見

当時の科学者はクルックス管(真空放電管)において, 陽極付近で黄緑色の蛍光が見える物質は何なのかを調べるために様々な実験を行いました。

ヒットルフ(独, 1824-1914)は, 「陰極から陽極へ見えない放射線が出ており, 陽極付近のガラス壁にあたることで蛍光が観察できる」と予想をたてました。

そして, この見えない放射線を陰極線と名付けました。

陰極線は陰極から陽極に流れる物質

陰極線の正体をつかむために, ヒットルフはクルックス管と十字板を用いて以下のような実験を行いました。

クルックス管の電極を直線状ではなく, 下図のAとBのように配置し, Bの電極上に十字板を置きます。ガラス管の壁面Cには蛍光塗料が塗布されています。

ヒットルフは, 電極ABの陽極(+)と陰極(-)を入れ替えて実験を行い, 以下のような結果が得ました。

クルックスの十字蛍光1

  1. A:陰極(-), B:陽極(+) ⇒ 壁面Cに十字板の影が現れ, 壁面の蛍光塗料が光った

クルックスの十字蛍光2

  1. A:陽極(+). B:陰極(-) ⇒ 十字板の影は見えず, 蛍光塗料にも変化はなかった

この実験から, 陰極線は陰極(-)から陽極(+)に一意に流れる物質であることが明らかとなりました。

クルックス管の実験と陰極線の性質

さらに, 陰極線の性質を調べるために, 先ほどとは形が異なるクルックス管を用いて以下のような実験が行われました。

電極AとBに高電圧の電流を流し, 陰極線を発生させます。電極ABに垂直に電極CDが配置してあります。

また, 電極CDと少し感覚をあけて, 蛍光塗料を塗布してあります。何もない部分を領域X, 蛍光塗料がある部分を領域Yとします。

電極AB間に陰極線を発生させると, 下の図のようになります。

クルックス管の実験

陰極線が目に見えたのは領域Yのみで, 領域Xでは確認されませんでした。このことから, 陰極線は私たちの目では見ることができず, 蛍光塗料を使えば観察できるといえます。

次に, この装置を用いて条件を加えながら実験を進めます。

1. 陰極線に垂直に電流を流す

電極CDに正負を変えながら, 電流を流してみます。

クルックス管と垂直電流1

  1. C:陽極(+). D:陰極(-) ⇒ 陰極線が上向きに曲がる

クルックス管と垂直電流2

  1. C:陰極(-). D:陽極(+) ⇒ 陰極線が下向きに曲がる

この実験から, 陰極線はマイナスと反発する性質(プラスに引き寄せられる性質)があることがわかります。このことから, 陰極線はマイナスの性質を持った物質であることが考えられます。

2. 陰極線に磁石を近づける

次に, 陰極線の上部から図のように磁石を近づけてみます。磁場は磁石のN極からS極へ向かうので, 紙面手前から奥へ向いています。

クルックス管と磁場

  • 磁石を近づけると, 陰極線は図のように下向きに曲がる

この陰極線の湾曲はフレミングの左手の法則に由来します。

[注意]電流は陽極(+)から陰極(-)へ流れるため, 陰極線とは逆向きであることに注意してください

実験(図中) フレミング左手の法則
電流 陽極から陰極へ ※陰極線とは逆 左手の中指
磁場 N極からS極 ※紙面手前から奥 左手の人差し指
下向き 左手の親指

陰極線の中にある物質はフレミング左手の法則に従い, 下向きにローレンツ力を受けます。そのため, 陰極線は下方向へ曲がります。

ちなみに, 磁場のN極とS極を逆にすると陰極線は上方向へ曲がることが確認できます。

3. 陰極線は粒子の流れである

さらに, 下図のようなクルックス管中に羽根車を設置し, 陰極線を発生させます。

クルックス管の羽根車

陰極線を発生させると, 羽根車が回ることを確認できます。

これは以下のように説明されます。

  1. 陰極線が当たった羽根車の羽根に当たる。
  2. その羽根が熱を帯びる。
  3. 羽根の近くにある残留気体分子の運動を激しくなる
  4. 気体分子が激しく動くため, 羽根車が回る。

また, 羽根の回る向きから陰極線が発生する向きもわかります。電極の正負を入れ替えれば, 羽根は逆向きに回ります。

陰極線の特徴

ここまでの実験から陰極線には以下のような特徴があることがいえます。

  • ガラス管内の気圧を下げることで発生する。

  • 直進する。

  • 目に見えない。

  • 蛍光物質にあたると発光し, 観察できる。

  • 陰極線中の物質はマイナスの性質を持つ。

  • フレミング左手の法則に従い, ローレンツ力を受ける

  • 羽根車を回す。

トムソンが解明した「陰極線=電子」

19世紀末に上記のような実験結果から, 陰極線の正体は「負の電荷を持った粒子の流れである」と結論付けられました。

しかし, 当時は「放射線=波」と考える科学者(波動説)もいたため, 陰極線の正体が=負の粒子であること(荷電粒子説)ついて受け入れられませんでした。

現在は 「陰極線=負の粒子」の説が正しいと判明しており, この負の粒子こそ, 皆さんも知っている通り電子です。

陰極線の正体は電子のであることを発見したのがトムソン(英, 1856-1940)です。電子の発見に繋がったトムソンの比電荷の実験については, 以下の記事を参考にしてください。

→トムソンの実験

真空管はブラウン管テレビや, 電子顕微鏡, 加速器などで電子を発生させる際にも利用されています。

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