ミリカンの油滴実験を用いた電気素量の求め方

今回は電気素量に関して解説します。

1897年にJ.J. トムソン(英, 1856-1940)により比電荷(電子の電気量と質量の比)が発見されました。

その後, ミリカン(米, 1868-1953)は比電荷に含まれる電子の電気量を突き止めることに成功しました。この電子の電気量を電気素量といいます。

そして, 電気素量を求めた実験は「ミリカンの油滴実験」として非常に有名です。

本記事では,

  1. 電気素量とは何か
  2. ミリカンの油滴実験からわかること
  3. 例題:電気素量の求め方

について解説していきます。

電気素量(素電荷)の定義

電気素量とは

電子が持つ電気量(電荷の量), 素電荷ともいう。

電気素量の大きさは, e1.60×1019[C]e ≒ 1.60×10^{-19}\mathrm{[C]}となる。

電子は負の電荷を持つため, e1.60×1019[C]-e ≒ -1.60×10^{-19} \mathrm{[C]} となる。

帯電体(電気を帯びた物質)が持つ電気量の大きさは, 素電荷 ee の整数倍となります。

なぜならば, 電子が素粒子(分割できない最小単位)であり, 帯電体の電気量の大きさは電荷の個数に比例するからです。電荷の個数は必ず整数をとります。

e1.60×1019[C]e ≒ 1.60×10^{-19} \mathrm{[C]} という数字は暗記しておくことをお勧めします。

原子を分解すると素粒子になる

上記で扱った素粒子について簡単に説明します。

物質を分解していくと, 元素表に載っているような原子に分割できます。そして, 原子は原子核と電子にわけられます。

原子核は, 陽子と中性子に分割することができます。しかし, 電子はそれ以上に分割できません

さらに, 陽子と中性子はクォークと呼ばれる粒子にわけること可能です。正確に言えば,

  • 陽子:アップクォーク2個+ダウンクォーク1個
  • 中性子:アップクォーク1個, ダウンクォーク2個

にわけられます。

物質の分解

このクォークはそれ以上に分割できません。電子やクオークのようにそれ以上に分割できない粒子を素粒子といいます。

素粒子は物質の最小単位

素粒子とは

それ以上に分割できない粒子。

これまでに17種類確認されている。

  • クォーク(アップ,ダウンなど6種類)
  • レプトン(電子, ニュートリノなど6種類)
  • 力を伝える粒子(光子など4種類)
  • ヒッグス粒子

素粒子は物質の最小単位で, 宇宙の起源に大きく関わっており, 今も研究が進められています。

ヒッグス粒子の発見やニュートリノの質量観測などニュースで聞いたことがあるかもしれません。

電気素量が発見されたミリカンの実験

電気素量 e=1.6×1019e = 1.6×10^{-19} を実験的に求めたのが ミリカンです。ミリカンが行った「油滴の実験」は非常に有名な実験です。

ミリカンは1923年に電気素量の発見光電効果の研究によりノーベル賞を受賞しています。

→光電効果

次から電気素量の発見に繋がった「油滴の実験」について解説していきます。

ミリカンの油滴の実験

ミリカンは下図のような実験装置を準備しました。

ミリカンの油滴実験

油を入れた霧吹きで作った油滴が落下する様子を顕微鏡で観察し, 油滴が落ちる速度を測定できます。また, 落ちていく油滴にX線を照射することも可能です。

そして, ミリカンは極板間に

  1. 電圧をかけない場合
  2. 電圧をかける場合

を比較することで電気素量を求めることに成功しました。順を追って, その手順を説明していきます。

1. 電圧をかけない場合

まず, 電圧をかけずに油滴の落下を観察します。

  1. 霧吹きで小さな油滴を作り, 上部の極板中央の小さな穴から油滴を落下させます。

  2. 空気中にX線を照射し, 空気分子をイオン化させます。→ イオン化した空気分子が油滴に付着し, 油滴が帯電します。

  3. 落下する油滴は軽い重力を加速します。→ しかし, 油滴は非常に軽いため空気抵抗を受け, 終端速度(等速)で落下します。

  4. この終端速度v0v_0を顕微鏡で見ながら測定します。

終端速度を復習したい方は以下を参照してください。

→終端速度

重力と空気抵抗のつり合いを考える

電圧をかけない場合は, 油滴一つに関して下図のように, 力が釣り合います。

油滴の終端速度

式で表すと,

mg=kv0 mg = k v_0

となります。パラメータは以下の通りです。

mm [kg\mathrm{kg}] : 油滴の質量

gg [m/s2\mathrm{m/s^2}] : 重力加速度

kk : 空気抵抗の比例定数

v0v_0 [m/s\mathrm{m/s}] : 電圧をかけない場合の終端速度

今回, 浮力は空気抵抗力に比べ非常に小さいものとして無視しています。

油滴は一つ一つの大きさ(体積)が異なるため, mm がバラバラなことに注意してください。

空気抵抗定数 kk の算出

油滴の実験では終端速度 v0v_0 が測定可能です。重力加速度 gg は既知であり, mmkk は未知数になります。

油滴の質量 mm油滴の密度 ρ\rho と半径 rr を使って算出することができます。一つの油滴が半径 r[m]r \mathrm{[m]} の綺麗な球形をしていると仮定すると, 体積 V=43πr3V = \dfrac{4}{3} \pi r^3[m3\mathrm{m^3}]となります。

油滴の密度をρ[kg/m3]\rho [\mathrm{kg /m^3} ] とすると, 油滴の質量は,

m=43πr3ρ m = \dfrac{4}{3} \pi r^3 \rho

と表現できます。

よって, 油滴の実験において油滴の半径 r[m]r\mathrm{[m]} を測定できれば, 質量m[kg]m \mathrm{[kg]} が既知の値になります。

したがって, つり合いの式を変形させた以下の式から, kk が求められます。 k=mgv0 k = \dfrac{mg}{v_0}

2. 電圧をかける場合

次に, 上記と同じ手順で電圧をかける場合について考えます。

電場 EE をとすると, 帯電した油滴に qEqE という力がかかります。そして, 帯電した油滴は電場の向きと強さによって, ①上昇 ②静止 ③下降の3パターンが存在します。

今回は, 鉛直上向きに適当な EE をかけ, 下図のように油滴が空中で静止させた場合について考えます。

油滴が電場によって上下に運動する場合は後述します。

油滴の静止

図のように油滴を静止している時, 鉛直下向きの重力 mgmg と鉛直上向きの電場から受ける力qEqE がつりあっています。式で表すと,

mg=qE mg = qE

となります。

q[C]q \mathrm{[C]} : 油滴の電気量の大きさ

E[V/m]E\mathrm{[V/m]} : 極板間の電場の強さ

電圧をかけて油滴を運動させる場合

電場の向きと大きさを調整し, 油滴が上昇または下降する場合について考えます。このとき, 終端速度を使いって, 以下のようなつり合いの式をたてることができます。

油滴の上昇

[油滴が上昇する場合(右図)]

mg=qE+kv1 mg = qE + kv_1

v1[m/s]v_1 \mathrm{[m/s]} : 油滴が上昇する終端速度

[油滴が下降する場合(左図)]

mg+qE=kv2 mg + qE = kv_2

v2[m/s]v_2 \mathrm{[m/s]} : 油滴が下降する終端速度

この場合終端速度v1v_1v2v_2を測定する必要があります。

油滴実験を使った電気素量の求め方

今回は, 電圧をかけない場合と電圧をかけ油滴を静止させた場合を使って 油滴の電気量 qq を求めます。

[電圧をかけない場合] mg=kv0 mg = k v_0

[電圧をかけ, 油滴を静止させた場合] mg=qE mg = qE

2つのつり合いの式から, 油滴の電気量 qq を求めると,

q=kv0E q = \dfrac{k v_0}{E}

が得られます。

v0v_0 は測定から, kkは前節で示した計算から求めることができます。EE は実験条件からわかるため, qqを割り出すことができます。

ただし, この qq を求めただけでは, 電気素量は求まっていません。 なぜならば, 油滴一つに電荷が何個も含まれているからです。

e=1.60×1019e = 1.60×10^{-19} は経験的に求められた

ミリカンは素電荷を求めるために, 油滴実験を何度も行い, q[C]q \mathrm{[C]} をたくさん求めました。

ミリカンは q[C]q \mathrm{[C]} をたくさん求めることである法則性を見つけます。それは, qq [C] がある値の整数倍となっているということです。

その値というのが,

1.60×1019 1.60×10^{-19}

です。この事実は, 油滴の電気量qq [C]は電気素量 ee が電荷の個数分の値であることを示しています。

これにより, e1.60×1019[C]e ≒ 1.60×10^{-19}\mathrm{[C]} が電気量の最小単位である電気素量であることがわかりました。

q[C]q\mathrm{[C]}ee の整数倍であることは次の例題1を解けば, より理解が深まると思います。

例題 : 電気素量の求め方

ミリカンの実験を使った例題に以下のようなものがあります。

ミリカンの油滴実験において, いくつかの油滴の電気量 q[C]q \mathrm{[C]} を測定したところ, 11.25, 3.21, 4.85, 6.44, 4.82 [×1019C\times 10^{-19} \mathrm{C} ] であった。

電気素量 ee を小数第一位まで求めよ。

解答

この問題は, 電気量 qq は電気素量 ee の整数倍であることを使って解きます。

まず, 測定結果を小さい順に並び変えます。(大きい順でも構いません。)

油滴1 油滴2 油滴3 油滴4 油滴5
×1019[C]×10^{-19}\mathrm{[C]} 3.21 4.82 4.85 6.44 11.25

そして, 隣合う数の差を取ります。

油滴2 - 油滴1 油滴3 - 油滴2 油滴4 - 油滴3 油滴5 - 油滴4
×1019[C]×10^{-19}\mathrm{[C]} 4.82 - 3.21 4.85 - 4.82 6.44 - 4.85 11.25 - 6.44
×1019[C]×10^{-19}\mathrm{[C]} 1.61 0.03 1.59 4.81

すると, 差がおよそ1.6の整数倍になっていると考えられます。(1.6は厳密でなくてもOK)

e=1.6e =1.6 とすると, 各油滴は次のように表すことができます。

油滴1 油滴2 油滴3 油滴4 油滴5
×1019[C]×10^{-19}\mathrm{[C]} 2e2e 3e3e 3e3e 4e4e 7e7e

油滴1の 2e2e とは, 油滴の中に電子が2個含まれていることを表しています。

最後に, 測定値の平均の ee を算出します。

(3.21+4.82+4.85+6.44+11.25)×10192+3+3+4+7=30.57×1019191.609×10191.6×1019 \begin{aligned} &\dfrac{( 3.21 + 4.82 + 4.85 + 6.44 + 11.25 ) ×10^{-19} }{2 + 3 + 3 + 4 + 7 }\\ &= \dfrac{ 30.57 \times10^{-19} }{ 19}\\ &\approx 1.609 \times10^{-19}\\ &\approx 1.6 \times 10^{-19} \end{aligned}

となり, 電気素量 ee を求めることができます。

ミリカンは1907年に水滴を落下させ, 電子の電荷を測定する実験を始めたそうです。そして, 1909年に水滴で, 1912年に油滴で電気素量を求めることに成功したそうです。 きっと, 水滴と油滴速度の観察は途方もない作業だったと思います。