【解答・解説】北大前期物理2025 第1問 -力学-

2025年度の北大前期物理第1問を解説します。力学の単元です。 なお,この記事に関する責任は,全て当ウェブサイトに属します。また,解説・解答等は,全て当ウェブサイトが独自に作成したものです。

問題

以下の問題文および図は,2025年度北海道大学前期日程入試問題物理第1問から引用しています(一部ライターが修正・変更した部分があります)。

第1問

以下の文中の (1)\fbox{(1)}(13)\fbox{(13)} に適切な数式または数値を入れよ。

あらい斜面に大きさの無視できる質量 m[kg]m [kg] の物体 A および質量 M[kg]M [kg] の物体 B が図のように置かれている。

hp25-1-fig

斜面の下端点 O から物体 A までの距離は d+l[m]d + l [m],点 O から物体 B までの距離は d[m]d [m] である。斜面と両物体の間には摩擦力がはたらき,そのうち斜面と物体 A の間の静止摩擦係数と動摩擦係数は,それぞれ μ\muμ2\dfrac{\mu}{2} である。ただし,M>mM > m とし,重力加速度の大きさを g[m/s2]g [m/s^2] とする。

問1 斜面の水平面からの角度を θ[rad]\theta [\text{rad}] としたとき,物体 A が斜面から受ける垂直抗力の大きさは (1)[N]\fbox{(1)} [N] である。物体 A が静止している場合,物体 A にはたらく静止摩擦力の大きさは (2)[N]\fbox{(2)} [N] である。また物体 A がすべり下りる場合,物体 A にはたらく動摩擦力の大きさは (3)[N]\fbox{(3)} [N] である。

問2 問3を含め以下では μ\mu を用いずに解答せよ。また,θ=π6rad\theta = \dfrac{\pi}{6} \text{rad} とする。このとき,物体 A と物体 B は静止したままであるが,無視できるほど小さな力を斜面に沿って下向きに物体 A に加えると,物体 A だけがすべり下り始めた。このことから,斜面と物体 A との間の静止摩擦係数 μ\mu(4)\fbox{(4)} であることがわかる。物体 A が動き始めた瞬間を時刻の原点とすると,物体 A は時刻 (5)[s]\fbox{(5)} [s] に物体 B と衝突する。物体 B に衝突する直前の物体 A の速さは (6)[m/s]\fbox{(6)} [m/s] であったが,衝突により物体 A は静止し,物体 B はすべり下り始めた。ただし,衝突している時間は十分短いので,衝突における重力と摩擦力の影響を考える必要はない。このとき,衝突直後の物体 B の速さは (7)[m/s]\fbox{(7)} [m/s] である。その後,物体 B は等速直線運動を始めた。このことから,斜面と物体 B の間の動摩擦係数は (8)\fbox{(8)} であることがわかる。

問3 問2の状況で,物体 A がすべり下り始めてから物体 B が斜面の下端点 O に達するまでに要する時間は (9)[s]\fbox{(9)} [s] である。この間の運動で失った力学的エネルギーは (10)[J]\fbox{(10)} [J] である。その内訳は,物体 A の運動で失った力学的エネルギーが 11[J]\fbox{11} [J],物体 B の運動で失った力学的エネルギーが (12)[J]\fbox{(12)} [J],衝突の際に失った力学的エネルギーが (13)[J]\fbox{(13)} [J] である。

力学に関する問題です。コンパクトながら,摩擦力や各保存則を適切に用いることが求められる良問です。

解答例

問1

(1)

物体 A が静止しているときに,物体 A にはたらいている力を図示してみます。

hp25-1-1-1

物体 A が斜面から受ける垂直抗力 (摩擦力の定義|動摩擦力・静止摩擦力・摩擦係数の解説) の大きさを NAN_A とします。斜面と垂直な方向での力のつりあい (力のつりあい・作用反作用との違い)より

NA=mgcosθ N_A = mg \cos{\theta}

と表すことができます。

(2)

静止摩擦力,動摩擦力の大きさをそれぞれ fA,fAf_A, f_A' とします。物体 A が静止しているときは,斜面と水平方向での力のつりあいより

fA=mgsinθ f_A = mg \sin{\theta}

と求められます。

(3)

物体 A が運動している場合は,動摩擦力と垂直抗力の関係より

fA=μ2NA=μ2mgcosθ \begin{aligned} f_A' &= \dfrac{\mu}{2} N_A \\ &= \dfrac{\mu}{2} mg \cos{\theta} \end{aligned}

と求められます。

問2

問2,問3では θ=π6\theta = \dfrac{\pi}{6} として計算します。

(4)

無視できるほど小さな力を加えて物体 A が斜面をすべり下り始めたことより,静止しているときには静止摩擦力が最大静止摩擦力と等しくなっていると考えられます。ゆえに,最大静止摩擦力の公式より

12mg=μ32mg \dfrac{1}{2} mg = \mu \dfrac{\sqrt{3}}{2} mg

μ=13 \therefore \mu = \dfrac{1}{\sqrt{3}}

と求められます。

(5)

斜面下側を運動の正の向きとします。A が運動しているときの斜面に水平な向きの加速度を aAa_A とすると,運動方程式 (運動方程式〜ニュートンの第2法則〜) より

maA=12mgμ232mg=12mg12332mg=14mg \begin{aligned} m a_A &= \dfrac{1}{2} mg - \dfrac{\mu}{2} \dfrac{\sqrt{3}}{2} mg \\ &= \dfrac{1}{2} mg - \dfrac{1}{2 \sqrt{3}} \dfrac{\sqrt{3}}{2} mg \\ &= \dfrac{1}{4} mg \end{aligned}

aA=14g \therefore a_A = \dfrac{1}{4} g

よって,初めの位置を座標の原点とすると,時刻 tt での物体 A のそ速度 vA(t)v_A (t) および xA(t)x_A (t) は,それぞれ等加速度運動 (等加速度運動・等加速度直線運動の公式) の公式より

vA(t)=aAt=14gt v_A (t) = a_A t = \dfrac{1}{4} g t

xA(t)=12aAt2=18gt2 x_A (t) = \dfrac{1}{2} a_A t^2 = \dfrac{1}{8} g t^2

時刻 t=t1t = t_1 に物体 A と物体 B が衝突すると考えると

xA(t1)=18gt12=l x_A (t_1) = \dfrac{1}{8} g t_1^2 = l

t1=22lg \therefore t_1 = 2 \sqrt{2} \sqrt{\dfrac{l}{g}}

と求められます。

(6)

時刻 t=t1t = t_1 での物体 A の速度 vA(t1)v_A (t_1) は,公式より

vA(t1)=14gt1=14g22lg=12gl \begin{aligned} v_A (t_1) &= \dfrac{1}{4} g t_1 \\ &= \dfrac{1}{4} g 2 \sqrt{2} \sqrt{\dfrac{l}{g}} \\ &= \dfrac{1}{\sqrt{2}} \sqrt{g l} \end{aligned}

となります。

(7)

物体 A・B の系で考えます。物体 A と B の衝突によりお互いが与え合う力は,この系では内力となるため,衝突前後では運動量が保存されます (運動量保存則とエネルギー保存則の導出)。

したがって,衝突直後の物体 B の速度を vB0v_B^0 とすると

mvA(t1)+M0=m0+MvB0 m v_A (t_1) + M \cdot 0 = m \cdot 0 + M v_B^0

vB0=mMvA(t1)=12mMgl \therefore v_B^0 = \dfrac{m}{M} v_A (t_1) = \dfrac{1}{\sqrt{2}} \dfrac{m}{M} \sqrt{g l}

のように求められます。

(8)

物体 B が動き出したあと,等速直線運動をすることより,斜面に水平な方向でも力のつりあいが成り立つことがわかります。

物体 B に加わる垂直抗力および動摩擦力を fB,NBf_B', N_B とすると,斜面に水平および垂直な方向での力のつりあいより

{水平:Mgsinπ6=12Mg=fB鉛直:NB=mgcosπ6=32Mg \begin{cases} \text{水平}:Mg \sin{\dfrac{\pi}{6}} = \dfrac{1}{2} Mg = f_B' \\ \text{鉛直}:N_B = mg \cos{\dfrac{\pi}{6}} = \dfrac{\sqrt{3}}{2} Mg \end{cases}

斜面と物体 B との間の動摩擦係数を μB\mu_B' とすると,動摩擦力と垂直抗力との関係 fB=μBNBf_B' = \mu_B' N_B より

12Mg=μB32Mg \dfrac{1}{2} Mg = \mu_B' \dfrac{\sqrt{3}}{2} Mg

μB=13 \therefore \mu_B' = \dfrac{1}{\sqrt{3}}

と求められます。

問3

(9)

物体 A が物体 B と衝突してからの時刻を tt' として表すことにします。

時刻 tt' での物体 B の位置 xB(t)x_B (t') は,等速直線運動の公式より

xB(t)=vB0t=12mMglt x_B (t') = v_B^0 t' = \dfrac{1}{\sqrt{2}} \dfrac{m}{M} \sqrt{g l} t'

物体 B が斜面の下端点 O に達するまでの時間 t=t1t' = t'_1

d=12mMglt1 d = \dfrac{1}{\sqrt{2}} \dfrac{m}{M} \sqrt{g l} t'_1

t1=2Mmdgl \therefore t'_1 = \sqrt{2} \dfrac{M}{m} \dfrac{d}{\sqrt{g l}}

これより,物体 A がすべり始めてから物体 B が斜面の下端点 O に達するまでに要する時間 TT

T=t1+t1=22lg+2Mmdgl=2lg(2+Mmdl) \begin{aligned} T &= t_1 + t'_1 \\ &= 2 \sqrt{2} \sqrt{\dfrac{l}{g}} + \sqrt{2} \dfrac{M}{m} \dfrac{d}{\sqrt{g l}} = \sqrt{2} \sqrt{\dfrac{l}{g}} \left( 2 + \dfrac{M}{m} \dfrac{d}{l} \right) \end{aligned}

と求められます。

(10)

この運動で失った力学的エネルギー ΔE\Delta E を求めるために,物体 A がすべり始めた瞬間の力学的エネルギー E(0)E (0) と物体 B が斜面の下端点 O に達した瞬間の力学的エネルギー E(T)E (T) を求めます。

hp25-1-3-10-1

上図より,E(0)E (0)

E(0)=mg(d+l)sinπ6+Mgdsinπ6=12[mg(d+l)+Mgd] E(0) = mg (d + l) \sin{\dfrac{\pi}{6}} + Mg d \sin{\dfrac{\pi}{6}} = \dfrac{1}{2} [mg (d + l) + Mg d]

hp25-1-3-10-2

また上図より E(T)E (T)

E(T)=mgdsinπ6+12M(vB0)2=12mgd+14(mM)2Mgl \begin{aligned} E (T) &= mg d \sin{\dfrac{\pi}{6}} + \dfrac{1}{2} M (v_B^0)^2 \\ &= \dfrac{1}{2 } mg d + \dfrac{1}{4} \left( \dfrac{m}{M} \right)^2 Mgl \end{aligned}

したがって,ΔE\Delta E

ΔE=E(0)E(T)=12Mgd+14(2mM)mgl \begin{aligned} \Delta E &= E(0) - E (T) \\ &= \dfrac{1}{2} Mg d + \dfrac{1}{4} \left( 2 - \dfrac{m}{M} \right) mgl \end{aligned}

のように表されます。

(11)

この失われたエネルギーは,物体 A の運動で失われたエネルギー ΔEA\Delta E_A,物体 B の運動で失われたエネルギー ΔEB\Delta E_B および衝突の際に失われたエネルギー ΔEc\Delta E_c の和として表されます。

まず,EA(0)E_A (0) を求めます。物体 A は運動中,摩擦によりエネルギーを失います。A が運動している間に A にはたらく摩擦力は一定で fAf_A' です。A は斜面に沿って ll だけ運動するので,摩擦により失うエネルギー ΔEA\Delta E_A

ΔEA=fAl=μ2NAl=123mg32l=14mgl \begin{aligned} \Delta E_A &= f_A' l \\ &= \dfrac{\mu}{2} N_A l \\ &= \dfrac{1}{2 \sqrt{3}} mg \dfrac{\sqrt{3}}{2} l \\ &= \dfrac{1}{4} mgl \end{aligned}

と求められます。

(12)

次に,ΔEB\Delta E_B について求めます。物体 A の運動と同様に,物体 B が運動している間に B にはたらく摩擦力は一定で fB=μBNBf_B' = \mu_B' N_B となります。B は斜面に沿って dd だけ運動するので

ΔEB=μBNBd=13Mg32d=12Mgd \begin{aligned} \Delta E_B &= \mu_B' N_B d \\ &= \dfrac{1}{\sqrt{3}} Mg \dfrac{\sqrt{3}}{2} d \\ &= \dfrac{1}{2} Mg d \end{aligned}

(13)

(11)での議論により,物体 A・B の衝突により失われたエネルギー ΔEc\Delta E_c

ΔEc=ΔEΔEAΔEB \Delta E_c = \Delta E - \Delta E_A - \Delta E_B

により求められます。

(10)・(11)・(12)の結果を代入して

ΔEc=12Mgd+14(2mM)mgl14mgl12Mgd=14(1mM)mgl \begin{aligned} \Delta E_c &= \dfrac{1}{2} Mg d + \dfrac{1}{4} \left( 2 - \dfrac{m}{M} \right) mgl - \dfrac{1}{4} mgl - \dfrac{1}{2} Mg d \\ &= \dfrac{1}{4} \left( 1 - \dfrac{m}{M} \right) mgl \end{aligned}

と求められます。

(13)の補足

(13)の結果より,物体 A・B の衝突でエネルギーが失われない条件は,ΔEc=0\Delta E_c = 0 から m=Mm = M,つまり,物体 A と B の質量が等しいときと求められます。

一方,物体 A・B の衝突でエネルギーが失われない条件 () は,A と B が弾性衝突することです。いま,衝突前には B は静止していて,衝突後には A が静止していることから,衝突前後の A,B の速度をそれぞれ vA,vBv_A, v_B とすると,運動量保存則より

mvA+M0=m0+MvB m v_A + M \cdot 0= m \cdot 0 + M v_B

さらに弾性衝突をすることより

vB0=1(0vA) v_B - 0 = -1 (0 - v_A)

vB=vA(0) \therefore v_B = v_A (\neq 0)

運動量保存則の条件より,結局物体 A・B の衝突でエネルギーが失われない条件として

m=M m = M

が得られます。

失われたエネルギーからの導出はこの議論の結果と一致しています。

終盤は ddll が登場するためやや煩雑です。落ち着いて式変形していきましょう。