直流発電機

コイルを用いて動力を電力に変換する装置である,直流発電機について解説します。また,例題を用いてその仕組みに慣れておきましょう。

直流発電機とは

直流発電機の原理

直流発電機とは,以下のように,向かい合ったN極・S極間に,コイル,整流子およびブラシを挿入した装置です。直流発電機は,常に同じ方向に流れる電流を発生させることができることが特徴であり,名前の由来にもなっています。

dc-gen1

いま,外部からコイルを回したとき,この装置が電流を発生させる様子を見ていきましょう。

はじめ,コイルと磁場とは並行になっているとします。以降,わかりやすさのため,点A,B,C,Dを同じ平面上に図示しています。

dc-gen2

コイルを回すと,下図のように,コイルと磁場とのなす角度 θ\theta が変化します。

dc-gen3

BB_{\perp} はコイルの面と垂直方向の磁場を表しています。θ\theta が変化することで,コイル内に入る磁束の大きさが変化します。電磁誘導(電磁誘導とレンツの法則)により,コイルには電流が流れるようになります。この電流の流れる向きは,レンツの法則および右ねじの法則(電流と磁束密度の関係)により,A→B→C→Dの向きおよびP→Qの向きに流れます。

こうして,コイルと磁場とのなす角度が90°になったとき,整流子とブラシが接触しなくなり,点PQ間にも電流は流れなくなります。このとき,BB_{\perp} が最大となります。

dc-gen4

さて,ここからさらにコイルが回転して下図のようになると,コイル内に入る右向きの磁場は少なくなります。

dc-gen5

レンツの法則および右ねじの法則より,コイルに流れる電流はD→C→B→Aの向きに流れます。ここで,整流子とブラシに着目します。整流子およびブラシのはたらきにより,全体では変わらずP→Qの向きに流れます。

これより,コイルを回し続けても,電流は流れる向きを変えずP→Qへと流れるというわけです。

例題

上記で考えた装置を,数式を用いて考察してみましょう。

例題

以下のような装置を考える。

ex-fig1

コイル面ABCDの面積は SS である。面ABCDは,時刻 t=0t = 0 に磁場と水平であり,反時計周りに角速度 ω\omega で回転しているとする。

ex-fig2

まず,コイル面ABCDをなす導体に生じる誘導起電力を考えることで,面ABCDに流れる電流を求める。

(1)コイル面をなす導線部AB,BC,CDのうち,誘導起電力が生じるのは導線部ABとCDのみである。その理由を述べよ。

(2)導線部ABおよびコイル面全体に発生する誘導起電力をそれぞれ求めよ。

(3)コイルに流れる電流を,時刻 tt のグラフとして書け。ただし,電流の向きは A→B→C→Dの方向に流れる向きを正とする。

次に,コイル面内を通る磁束密度を考えることで,面ABCDに流れる電流を求める。

(4)時刻 tt に面ABCDを通る磁束の大きさを求めよ。

(5)コイルに流れる電流を,時刻 tt の関数として求めよ。

色々な概念の復習も兼ねている問題になっています。

解答例

(1)一様な磁場内を運動する導体棒に生じる誘導起電力 VV は,下式で表現できる。(詳しくは 導体棒と誘導起電力 を参照)

V=l(v×B)水平=lvBsinθ V = l (\vec{v} \times \vec{B})_{\text{水平}} = l |v| |B| \sin{\theta}

ここで,ll は導体棒の長さ,ve\vec{v}_e は導体棒の速度,B\vec{B} は磁場である。また,()水平()_{\text{水平}} は,導体に水平な方向の成分を表し,θ\thetav\vec{v}B\vec{B} のなす角度とする。

いま,面 ABCD が角度 ϕ\phi だけ回転したとき,導体棒 AB には下図のように誘導起電力が生じる。

ex-ans1-1

導体棒 CD にも同様に誘導起電力が生じる。

一方,導体棒 BC 内の電子は下図のようにローレンツ力がはたらく。

ex-ans1-2

このとき,v×B\vec{v} \times \vec{B} は導体棒 BC と直交するため,導体棒 BC にはたらく誘導起電力は 0 となる。

(2)いま,導体棒 AB の各点は,角速度 ω\omega で半径 lx/2l_x / 2 の等速円運動をしていると考えられる。したがって,導体棒 AB の速さ vv

v=lx2ω v = \dfrac{l_x}{2} \omega

である。上図より,導体棒 AB にはたらく誘導起電力 VABV_{AB}

VAB=lylx2ωBsinϕ=lylx2ωBsin(π2ωt)=ωSB2cosωt \begin{aligned} V_{AB} &= l_y \dfrac{l_x}{2} \omega B \sin{\phi} \\ &= l_y \dfrac{l_x}{2} \omega B \sin{\left( \dfrac{\pi}{2} - \omega t \right)} \\ &= \dfrac{\omega S B}{2} \cos{\omega t} \end{aligned}

同様にして,導体棒 CD にはたらく誘導起電力 VCDV_{CD}

VCD=VAB=ωSB2cosωt V_{CD} = V_{AB} = \dfrac{\omega S B}{2} \cos{\omega t}

VAB,VCDV_{AB}, V_{CD} の向きは下図のようになる。

ex-ans1-3

したがって,面 ABCD の回転角がいずれでも,コイル面全体に発生する誘導起電力の大きさは,導体棒 AB・CD にはたらく誘導起電力の大きさの和で求められ,

Vtot=VAB+VCD=ωSBcosωt V_{tot} = V_{AB} + V_{CD} = \omega S B \cos{\omega t}

(3)流れる電流は

I=Vtotr=ωSBrcosωt I = \dfrac{V_{tot}}{r} = \dfrac{\omega S B}{r} \cos{\omega t}

ex-ans3

例えば,0t2πω0 \leq t \leq \dfrac{2 \pi}{\omega} でグラフを描くと,下図のようになる。

(4)まず,向きも含めて,面ABCDを通る磁束を求める。このとき,磁場および磁束は電流をA→B→C→Dの向きに流す方向を正とする。

B\vec{B} の面 ABCD に垂直な方向の成分を BB_{\perp} とし,面 ABCD を通る磁束を Φ\Phi とする。

場合分けして考える。

(i)0ωtπ20 \leq \omega t \leq \dfrac{\pi}{2} のとき

ex-ans4-1

上図より

Φ=BS=BScos(π2ωt)=BSsinωt(<0) \Phi = - B_{\perp} S = - B S \cos{\left( \dfrac{\pi}{2} - \omega t \right)} = - B S \sin{\omega t} (< 0)

(ii)π2ωtπ\dfrac{\pi}{2} \leq \omega t \leq \pi のとき

ex-ans4-2

上図より

Φ=BS=BScos(ωtπ2)=BSsinωt(<0) \Phi = - B_{\perp} S = - B S \cos{\left( \omega t - \dfrac{\pi}{2} \right)} = - B S \sin{\omega t} (< 0)

(iii)πωt3π2\pi \leq \omega t \leq \dfrac{3 \pi }{2} のとき

ex-ans4-3

上図より

Φ=BS=BScos(ωtπ2)=BSsinωt(>0) \Phi = - B_{\perp} S = - B S \cos{\left( \omega t - \dfrac{\pi}{2} \right)} = - B S \sin{\omega t} (> 0)

(iV)3π2ωt2π\dfrac{3 \pi }{2} \leq \omega t \leq 2 \pi のとき

ex-ans4-4

上図より

Φ=BS=BScos(5π2ωt)=BScos(π2ωt)=BSsinωt(>0) \begin{aligned} \Phi &= - B_{\perp} S = - B S \cos{\left( \dfrac{5 \pi}{2} - \omega t \right)} \\ &= - B S \cos{\left( \dfrac{ \pi}{2} - \omega t \right)} \\ &= - BS \sin{\omega t} (> 0) \end{aligned}

したがって,磁束の大きさは

Φ={BSsinωt(0tπω)BSsinωt(πtt2πω) |\Phi| = \begin{cases} BS \sin{\omega t} \quad \left( 0 \leq t \leq \dfrac{\pi}{\omega} \right) \\ -BS \sin{\omega t} \quad \left( \dfrac{\pi}{t} \leq t \leq \dfrac{2 \pi}{\omega} \right) \end{cases}

(5)ファラデーの電磁誘導の法則(電磁誘導とレンツの法則)より,面ABCDに発生する誘導起電力の大きさ VV' は,下式で表現できる。

V=dΦdt V' = \left| \dfrac{d |\Phi|}{dt} \right|

上式より

V=ωBScosωt={ωBScosωt(0tπω,3π2ωt2π)ωBScosωt(πωt3π2ω) \begin{aligned} V' &= \omega BS |\cos{\omega t}| \\ &= \begin{cases} \omega BS \cos{\omega t} \quad \left( 0 \leq t \leq \dfrac{\pi}{\omega}, \dfrac{3 \pi}{2 \omega} \leq t \leq 2 \pi \right) \\ -\omega BS \cos{\omega t} \quad \left( \dfrac{\pi}{\omega} \leq t \leq \dfrac{3 \pi}{2 \omega} \right) \end{cases} \end{aligned}

したがって,面ABCDに流れる電流の大きさ I|I'| は,

I=Vr=ωBScosωt={ωBSrcosωt(0tπω,3π2ωt2π)ωBSrcosωt(πωt3π2ω) \begin{aligned} I' &= \dfrac{V'}{r} = \omega BS |\cos{\omega t}| \\ &= \begin{cases} \dfrac{\omega BS}{r} \cos{\omega t} \quad \left( 0 \leq t \leq \dfrac{\pi}{\omega}, \dfrac{3 \pi}{2 \omega} \leq t \leq 2 \pi \right) \\ -\dfrac{\omega BS}{r} \cos{\omega t} \quad \left( \dfrac{\pi}{\omega} \leq t \leq \dfrac{3 \pi}{2 \omega} \right) \end{cases} \end{aligned}

レンツの法則から誘導起電力および電流の向きを考える。上述(i),(ii),(iii),(iv)の場合分けを元に考える。

(i)の場合は,電流をD→C→B→Aの向きに流す方向の磁場が増えるので,電流をA→B→C→Dの向きに流す方向に誘導起電力がはたらく。

(ii)の場合は,電流をD→C→B→Aの向きに流す方向の磁場が減るので,電流をD→C→B→Aの向きに流す方向に誘導起電力がはたらく。

(iii)の場合は,電流をA→B→C→Dの向きに流す方向の磁場が増えるので,電流をD→C→B→Aの向きに流す方向に誘導起電力がはたらく。

(iv)の場合は,電流をA→B→C→Dの向きに流す方向の磁場が減るので,電流をA→B→C→Dの向きに流す方向に誘導起電力がはたらく。

したがって,(i)・(iv)の場合の電流は正の向きで,(ii)・(iii)の場合の電流は負の向きである。これより面ABCDを流れる電流 II'

I=ωBSrcosωt I' = \dfrac{\omega BS}{r} \cos{\omega t}

これは(3)の解と一致している。

【補足】交流発電機とは

交流発電機は,直流発電機と異なり,一定周期で電流の向きが変わるような電流を発生させられる発電機です。

交流発電機としては,例えば以下のような装置が考えられます。

ac-gen

装置は全て導体で構成されています。このため,コイルが回転することにより,電流の流れる向きがP→QとQ→Pとで交互に変化することになります。

直流発電機では,電流の向きが常に一定であることが,最大のポイントです。