オイラーの運動方程式・流線・ベルヌーイの定理の導出

この記事では、流体力学の基本法則である,ベルヌーイの定理を紹介します。まず,ナビエ-ストークス方程式やオイラーの運動方程式といった流体力学の基礎方程式を紹介し,それらをもとに2種類のベルヌーイの定理を導出していきます。

ナビエ-ストークス方程式

ナビエ-ストークス方程式

ρ{vt+(v)v}=ρXp+μ2v\rho\left\lbrace\dfrac{\partial\boldsymbol{v}}{\partial t}+(\boldsymbol{v}\cdot\nabla)\boldsymbol{v}\right\rbrace=\rho\boldsymbol{X}-\nabla p+\mu\nabla^2\boldsymbol{v}

ナビエ-ストークス方程式について,導出や詳しい解説を知りたい人は以下の記事を参照してください。

ナビエ-ストークス方程式の導出

また,式中の記号については,以下を参照してください。

ベクトル場における発散(div)と回転(rot)の定義・意味

勾配ベクトルの意味と例題

偏微分の意味と計算例・応用

ナビエ-ストークス方程式を導出するにあたって行った仮定は,流体の一様性と流体の非圧縮性です。さらに,流体に粘性(流体間にはたらく摩擦力)がないと仮定すると,次のオイラーの運動方程式を得ることができます。非圧縮性と非粘性を持つ流体のことを完全流体といいます。

オイラーの運動方程式

オイラーの運動方程式

完全流体について, ρ{vt+(v)v}=ρXp\rho\left\lbrace\dfrac{\partial\boldsymbol{v}}{\partial t}+(\boldsymbol{v}\cdot\nabla)\boldsymbol{v}\right\rbrace=\rho\boldsymbol{X}-\nabla p が成り立つ。ここで v\boldsymbol{v} は流体の速度ベクトル,X\boldsymbol{X} は単位質量あたりに流体に働く外力,ρ\rho は流体の密度,pp は流体の圧力を表す。

ナビエ-ストークス方程式とオイラーの運動方程式を見比べてみると,オイラーの運動方程式では,粘性項 μ2v\mu\nabla^2\boldsymbol{v} がないことがわかります。これが,流体に粘性がないと仮定した効果となっています。

流線

ベルヌーイの定理Ⅰの導出にあたって,重要な概念である流線を紹介します。流線とは,時間的に流れが一定の流体(定常流)において,各点での速度ベクトルを繋ぎ合わせた曲線として定義されます。すなわち,流線の接線が速度ベクトルになります。速度ベクトルを v=(u,v,w)\boldsymbol{v}=(u,v,w) としたとき,q=dsdt=u2+v2+w2q=\dfrac{ds}{dt}=\sqrt{u^2+v^2+w^2}を満たすような ss をパラメータとして流線を記述することにします。

このとき,u=dxdt=dxdsdsdt=qdxdsu=\dfrac{dx}{dt}=\dfrac{dx}{ds}\dfrac{ds}{dt}=q\dfrac{dx}{ds}が成り立ちます。同様に,v=(u,v,w)=(qdxds,qdyds,qdzds)\boldsymbol{v}=(u,v,w)=\left(q\dfrac{dx}{ds},q\dfrac{dy}{ds},q\dfrac{dz}{ds}\right) と表すことができます。

この ss を用いた表示を使って,ベルヌーイの定理Ⅰを導出していきます。

【補足】オイラーの方法とラグランジュの方法

流体力学は,オイラーとラグランジュによって異なるアプローチが与えられました。大雑把にいうと,オイラーは空間に固定された空間への流量などを意識した観点を与え,ラグランジュはミクロな粒子の集合である流体の軌道を追うような観点を与えました。ここで考えた速度場(流線)を考える方法は,オイラーの方法に属します。

ベルヌーイの定理Ⅰ

完全流体のエネルギー保存にあたる定理である,ベルヌーイの定理を紹介します。この記事では二種類のベルヌーイの定理を導出します。

定常ベルヌーイの定理

保存力のみが外力としてはたらく定常流では流線に沿って12q2+U+dpρ=const.\dfrac{1}{2}q^2+U+\int\dfrac{dp}{\rho}=\mathrm{const.} が成り立つ。

ここで qq は流速,UU は保存力のポテンシャルエネルギー,ρ\rho は流体の密度,pp は流体の圧力を表す。P=dpρP=\int\dfrac{dp}{\rho}圧力関数と呼ぶこともある。

導出

定常流においては,vt=0\dfrac{\partial\boldsymbol{v}}{\partial t}=0 である。このとき,オイラーの運動方程式はポテンシャルエネルギー UU を用いて,(v)v=(U+P)(\boldsymbol{v}\cdot\nabla)\boldsymbol{v}=-\nabla (U+P)と表せる。ただし P=dpρP=\int\dfrac{dp}{\rho} を用いた。ここでこの式の xx 成分を考える。xx 成分は,uux+vuy+wuz=x(U+P)u\dfrac{\partial u}{\partial x}+v\dfrac{\partial u}{\partial y}+w\dfrac{\partial u}{\partial z}=-\dfrac{\partial}{\partial x}(U+P)となる。これに流線の式,(u,v,w)=(qdxds,qdyds,qdzds)(u,v,w)=\left(q\dfrac{dx}{ds},q\dfrac{dy}{ds},q\dfrac{dz}{ds}\right) を代入すると,uux+vuy+wuz=q(uxxs+uyys+uzzs)=qdudsu\dfrac{\partial u}{\partial x}+v\dfrac{\partial u}{\partial y}+w\dfrac{\partial u}{\partial z}=q\left(\dfrac{\partial u}{\partial x}\dfrac{\partial x}{\partial s}+\dfrac{\partial u}{\partial y}\dfrac{\partial y}{\partial s}+\dfrac{\partial u}{\partial z}\dfrac{\partial z}{\partial s}\right)=q\dfrac{du}{ds} よって qduds=x(U+P)q\dfrac{du}{ds}=-\dfrac{\partial}{\partial x}(U+P).

この左辺と右辺にそれぞれ,1qu=dxds\dfrac{1}{q}u=\dfrac{dx}{ds} の左辺と右辺をかけると,12du2ds=x(U+P)dxds\dfrac{1}{2}\dfrac{du^2}{ds}=-\dfrac{\partial}{\partial x}(U+P)\dfrac{dx}{ds}.

yy 成分,zz 成分も同様に,12dv2ds=x(U+P)dyds\dfrac{1}{2}\dfrac{dv^2}{ds}=-\dfrac{\partial}{\partial x}(U+P)\dfrac{dy}{ds}

12dw2ds=x(U+P)dzds\dfrac{1}{2}\dfrac{dw^2}{ds}=-\dfrac{\partial}{\partial x}(U+P)\dfrac{dz}{ds} x,y,zx,y,z 成分に関して両辺和をとると,u2+v2+z2=q2u^2+v^2+z^2=q^2

x(U+P)dxds+x(U+P)dyds+x(U+P)dzds=dds(U+P)\dfrac{\partial}{\partial x}(U+P)\dfrac{dx}{ds}+\dfrac{\partial}{\partial x}(U+P)\dfrac{dy}{ds}+\dfrac{\partial}{\partial x}(U+P)\dfrac{dz}{ds}=\dfrac{d}{ds}(U+P) より,dds(12q2+U+P)=0\dfrac{d}{ds}\left(\dfrac{1}{2}q^2+U+P\right)=0を得る。ssは流線を記述するパラメータなので,結論を得る。

導出では,オイラーの運動方程式のエネルギー積分を行なっています。

渦度ベクトルと速度ポテンシャル

さて,ベルヌーイの定理Ⅱに向け,渦を記述する物理量として渦度ベクトルを導入します。

渦度ベクトル

ω=rotv=(wyvz,uzwx,vxuy)\boldsymbol{\omega}=\mathrm{rot}{\boldsymbol{v}}=\left(\dfrac{\partial w}{\partial y}-\dfrac{\partial v}{\partial z},\dfrac{\partial u}{\partial z}-\dfrac{\partial w}{\partial x},\dfrac{\partial v}{\partial x}-\dfrac{\partial u}{\partial y}\right)

以下で紹介するベルヌーイの定理Ⅱは,渦がない状態を考えますが,流体に渦がない条件は ω=0\boldsymbol{\omega=0} で表されます。この時,ある重要な性質が流体について成り立ちます。

速度ポテンシャル

渦がない流体について,速度ポテンシャル ϕ\phi が存在し,流体の速度 v\boldsymbol{v}ϕ\phi を用いてv=(u,v,w)=gradϕ=(ϕx,ϕy,ϕz)\boldsymbol{v}=(u,v,w)=\mathrm{grad}{\phi}=\left(\dfrac{\partial\phi}{\partial x},\dfrac{\partial\phi}{\partial y},\dfrac{\partial\phi}{\partial z}\right)と表される。

証明

ベクトル解析の有名な定理として,以下の命題が同値になることが知られている。 rotE=0    あるスカラーポテンシャルϕ(r)が存在して,E(r)=gradϕ(r)が成立する \begin{aligned} &\mathrm{rot} \boldsymbol{E} = \boldsymbol{0}\\ &\iff\\ &\text{あるスカラーポテンシャル} \phi(\boldsymbol{r}) \text{が存在して,} \boldsymbol{E}(\boldsymbol{r}) = -\mathrm{grad} \phi(\boldsymbol{r}) \text{が成立する} \end{aligned} ここで,スカラーポテンシャル ϕ\phi は定数の自由度を除いて一意に定まるものである。

さて,流体に渦がない時,ω=0\boldsymbol{\omega=0} が成り立つ。 上記の定理により,ある適当な関数 ϕ\phi を用いて v=gradϕ\boldsymbol{v}=\mathrm{grad\phi} とおくことができる。

上の証明で出てくるベクトル解析の定理はとても有名なものです。証明もそこまで難しいものではないですが,余白の都合上,別記事で解説したいと思います。

渦がない流れのことをポテンシャル流ということもあります。 ここまでで導入した概念を用いて,ベルヌーイの定理Ⅱを記述していきます。

ベルヌーイの定理Ⅱ

一般化ベルヌーイの定理

渦がない流体の全領域において, ϕt+12q2+U+P=f(t)\dfrac{\partial\phi}{\partial t}+\dfrac{1}{2}q^2+U+P=f(t) が成り立つ。ここで f(t)f(t)tt の一価関数である。

導出

オイラーの運動方程式の xx 成分は,ut+uux+vuy+wuz=x(U+P)\dfrac{\partial u}{\partial t}+u\dfrac{\partial u}{\partial x}+v\dfrac{\partial u}{\partial y}+w\dfrac{\partial u}{\partial z}=-\dfrac{\partial}{\partial x}(U+P)このとき渦度ベクトル ω=0\boldsymbol{\omega=0} の条件より,uy=vx,uz=wx\dfrac{\partial u}{\partial y}=\dfrac{\partial v}{\partial x},\dfrac{\partial u}{\partial z}=\dfrac{\partial w}{\partial x} が成り立つ。これをオイラーの運動方程式の xx 成分に代入すると,ut+uux+vvX+wwx=x(U+P)\dfrac{\partial u}{\partial t}+u\dfrac{\partial u}{\partial x}+v\dfrac{\partial v}{\partial X}+w\dfrac{\partial w}{\partial x}=-\dfrac{\partial}{\partial x}(U+P)ここで q2=u2+v2+z2q^2=u^2+v^2+z^2 を両辺 xx で偏微分して,両辺を 22 で割ると,uux+vvX+wwx=q22xu\dfrac{\partial u}{\partial x}+v\dfrac{\partial v}{\partial X}+w\dfrac{\partial w}{\partial x}=\dfrac{\partial \dfrac{q^2}{2}}{\partial x} さらに速度ポテンシャルの表式は,ut=tϕxxϕt\dfrac{\partial u}{\partial t}=\dfrac{\partial}{\partial t}\dfrac{\partial\phi}{\partial x}=\dfrac{\partial}{\partial x}\dfrac{\partial\phi}{\partial t}

これらを代入して,x(ϕt+12q2+U+P)=0\dfrac{\partial}{\partial x}\left(\dfrac{\partial\phi}{\partial t}+\dfrac{1}{2}q^2+U+P\right)=0

同様の式が,y,zy,z 成分にも成り立つので,結論を得る。

渦がある場合も流線に沿って成り立つベルヌーイの定理Ⅰに対して,ベルヌーイの定理Ⅱは渦がない場合のみ流体の全領域に成り立つ公式です。

オイラーの方程式もナビエ-ストークス方程式と同様に,解析が非常に困難な方程式として知られています。