気体の状態変化とモル比熱(断熱変化,等温変化,定圧変化など)

気体の状態変化とは,気体の系において圧力,体積,温度が変化することを表します。

特に高校物理においては,熱力学第一法則とボイル・シャルルの法則を利用して,気体の状態がどのように変わるかを考察します。

なお,気体が外部から吸収した熱量をQQQQによる内部エネルギー変化をΔU\Delta{U},気体が外部にした仕事をWWとして,

  • 熱力学第一法則

Q=ΔU+WQ=\Delta{U}+W

  • ボイル・シャルルの法則

PVT=const.\dfrac{PV}{T}=const.

と表します。

今回は圧力,体積,温度などの変数を固定し,気体の状態がどう変わるかをそれぞれの事例について説明していきます。

代表的な変化過程の状態図

n=一定n= 一定 の理想気体の平衡状態は P,V,TP, V, T で表すことができます。

P,V,TP, V, T のうち,2つがわかれば残り1つも定まるので,PVP-VPTP-TVTV-T の3つの関係を調べれば十分です。

  1. PVP-V 図(最もよく使われる)

圧力-体積のグラフの面積から仕事を計算する

(ゆっくりとした変化なら,)

W=V2V1PdVW=\int_{V_2}^{V_1}P \cdot dV は斜線面積と一致します。

圧力-体積のグラフにおける等温線

  1. TVT-V

体積-温度のグラフにおける等圧線

T=PnRVT=\dfrac{P}{nR}V

  1. TPT-P

圧力-温度のグラフにおける等積線

T=VnRPT=\dfrac{V}{nR}P

PVP-V 図がよく使われる2つの理由としては,

(ⅰ) 仕事 WW が視覚的に捉えられる

(ⅱ) P,V,TP, V, T の関係も見やすい

ということがあげられます。

モル比熱とは

モル比熱とは,1mol1\mathrm{mol} の物質を 1[K]1[\mathrm{K}] 上昇させるのに必要な熱量のことです。

以下のように定義されます。

C=QnΔT (Q=nCΔT)C=\dfrac{Q}{n\Delta{T}} (Q=nC\Delta{T})

一見気体の状態変化とはあまり関係がないように思うかもしれませんが,この単元の理解には欠かせません。

固体,液体は,温度によりその体積が一義的に決まり,比熱もほとんど一義的に決まります。

一方で気体は,自由度が大きく,様々な経路で等しい温度変化が実現します。

つまり,変化に応じてそれぞれの比熱が定義されるということです。

定積変化

定積変化における圧力-体積のグラフ

 (P1,V1,T1)(P2,V2,T2)\ (P_1, V_1, T_1) \to (P_2, V_2, T_2)

このとき,体積変化がないので,W=0W=0 です。

熱力学第一法則より,Q=ΔUQ=\Delta{U} となりますね。

また,

PVT=const.\dfrac{PV}{T}=const.

VV が一定になるので,

PT=const.\dfrac{P}{T}=const.

つまり,圧力と温度が比例することがわかります。

定積モル比熱

ここで,定積変化のモル比熱 (Cvとする)(C_vとする) を考えます。

{ Q=nCvΔT ΔU=nCvΔT① (ΔT=T2T1) \begin{cases} \ Q=n C_v \Delta{T} \\ \ \Delta{U}=nC_v\Delta{T}…① (\Delta{T}=T_2-T_1) \end{cases}

であり,

ΔU=3+f2nRΔT\Delta{U}=\dfrac{3+f}{2}nR\Delta{T} から,Cv=3+f2nRΔTC_v=\dfrac{3+f}{2}nR\Delta{T}

特に,単原子分子理想気体では f=0f=0 なので

Cv=32RC_v=\dfrac{3}{2}R

常温の二原子分子理想気体では f=2f=2 なので

Cv=52RC_v=\dfrac{5}{2}R

となります。

内部エネルギーを ΔU=3+f2nRΔT\Delta{U}=\dfrac{3+f}{2}nR\Delta{T} と表す理由については,気体の内部エネルギーの意味と公式,求め方をご参照ください。

定圧変化

定圧変化における圧力-体積のグラフ

 (P1,V1,T1)(P2,V2,T2)\ (P_1, V_1, T_1) \to (P_2, V_2, T_2)

このとき,WW は斜線面積と等しいので

W=P(V2V1)W=P(V_2-V_1)

系が外部にする仕事は,系が外圧に抗して膨張することによります。

そのとき,仕事は

W=V1V2PdVW=\int_{V_1}^{V_2}P_外 \cdot dV

また,

PVT=const.\dfrac{PV}{T}=const.

PP が一定になるので,

VT=const.\dfrac{V}{T}=const.

つまり,体積と温度が比例することがわかります。

定圧モル比熱

定圧変化でのモル比熱 (Cpとする)(C_pとする) を考えます。

{ Q=nCpΔT ΔU=nCpΔTP(V2V1)②  (ΔT=T2T1) \begin{cases} \ Q=n C_p \Delta{T} \\ \ \Delta{U}=nC_p\Delta{T}-P(V_2-V_1)…②  (\Delta{T}=T_2-T_1) \end{cases}

単原子分子理想気体においては,

ΔU=32nRΔT\Delta{U}=\dfrac{3}{2}nR\Delta{T}…③

定圧変化において,PP は一定なので

PΔV=nRΔT④ (ΔV=V2V1)P\Delta{V}=nR\Delta{T}…④  (\Delta{V}=V_2-V_1)

が成り立ちますね。

②に③,④を代入して

Q=32nRΔT+nRΔT=52nRΔT \begin{aligned} Q &= \dfrac{3}{2}nR\Delta{T}+nR\Delta{T} \\ &= \dfrac{5}{2}nR\Delta{T} \end{aligned}

定圧モル比熱 Cp=52RC_p=\dfrac{5}{2}R であることがわかりました。

マイヤーの関係式

マイヤーの関係式について説明します。

定積変化、定圧変化による、異なる経路で同じ内部エネルギー変化をしたときの圧力-体積のグラフ

状態 AB1A → B_1 (定積変化)と

状態 AB2A → B_2 (定圧変化)は

違う経路ですが,ΔT\Delta{T} がともに等しいので ΔU\Delta{U} も等しくなります。

ここで,定積,定圧モル比熱の見出しの

{ ΔU=nCvΔT ΔU=nCpΔTP(V2V1)②  \begin{cases} \ \Delta{U}=nC_v\Delta{T}…① \\ \ \Delta{U}=nC_p\Delta{T}-P(V_2-V_1)…②  \end{cases}

から,

nCvΔT=nCpΔTnRΔTnC_v\Delta{T}=nC_p\Delta{T}-nR\Delta{T}

Cp=Cv+R∴C_p=C_v+R

これをマイヤーの関係式といい,理想気体において成立します。

等温変化

等温変化における圧力-体積のグラフ

 (P1,V1,T)(P2,V2,T)\ (P_1, V_1, T) \to (P_2, V_2, T)

このとき,仕事 WW

W=V2V1nRTVdV=nRTlogV2V1=nRTlogP1P2 \begin{aligned} W &= \int_{V_2}^{V_1} \dfrac{nRT}{V} \cdot dV \\ &= nRT\log{\dfrac{V_2}{V_1}} \\ &= nRT\log{\dfrac{P_1}{P_2}} \end{aligned}

等温変化において,ΔU=0\Delta{U}=0 だから

熱力学第一法則より,

Q=W=nRTlogV2V1=nRTlogP1P2 \begin{aligned} ∴Q &=W \\ &= nRT\log{\dfrac{V_2}{V_1}} \\ &= nRT\log{\dfrac{P_1}{P_2}} \end{aligned}

等温変化においては,

{ 系を膨張させる(等温膨張) → 外部から熱を奪う 系を圧縮させる(等温圧縮) → 外部へ熱を放出\begin{cases} \ \text{系を膨張させる(等温膨張) → 外部から熱を奪う} \\ \ \text{系を圧縮させる(等温圧縮) → 外部へ熱を放出} \end{cases}

となりますね。

断熱変化

断熱変化では,熱の移動が行われないので, Q=0Q=0

熱力学第一法則より,

ΔU=W\Delta{U}=-W

つまり,直感的な理解としては,

{ 系を膨張させる(断熱膨張) → 温度が下がる 系を圧縮させる(断熱圧縮) → 温度が上がる\begin{cases} \ \text{系を膨張させる(断熱膨張) → 温度が下がる} \\ \ \text{系を圧縮させる(断熱圧縮) → 温度が上がる} \end{cases}

となります。

さて,気体の系を断熱的 Q=0(Q=0) に”ゆっくり”と変化させることを考えてみます。

微小変化  (P,V,T)(P+ΔP,V+ΔV,T+ΔT)\ (P, V, T) \to (P+\Delta{P}, V+\Delta{V}, T+\Delta{T}) をみてみましょう。

Q=0(Q=0) から,熱力学第一法則より,

0=nCvΔT+PΔV0=nC_v\Delta{T}+P\Delta{V}

PV(=nRT)PV(=nRT) で両辺を割ると,

0=CvRΔTT+ΔVV0=\dfrac{C_v}{R}\dfrac{\Delta{T}}{T}+\dfrac {\Delta{V}}{V}

dTT=RCvdVV∴\int_{}^{}\dfrac{dT}{T}=-\dfrac{R}{C_v}\int_{}^{}\dfrac{dV}{V}

logT=RCvlogV+const.∴\log{T}=-\dfrac{R}{C_v}\log{V}+const.

logTVRCv=const.∴\log{TV^{\frac{R}{C_v}}}=const.

つまり,TVRCv=一定TV^{\frac{R}{C_v}} = 一定 が成立することがわかりますね。

T=PVnRT=\dfrac{PV}{nR} を代入して整理すると,

PV1+RCv=一定PV^{1+\frac{R}{C_v}}=一定 が成り立ちます。

ここで,比熱比 γ=CpCv=1+RCv\gamma=\dfrac{C_p}{C_v}=1+\dfrac{R}{C_v} を定義します。

すると,断熱変化では

PVγ1=一定,PVγ=一定PV^{\gamma-1}=一定,PV^\gamma=一定 が成立します。

これらを,断熱変化に関するポアソンの式といいます。

気体の状態変化においては,どの変数が固定されているのかと,変数同士の関係を正しく理解することが鍵です。