気体の内部エネルギーの意味と公式,求め方

気体の内部エネルギー

物体の内部の分子運動による運動エネルギーと,分子間力によるポテンシャルエネルギーを,内部エネルギーと呼ぶ。

特に,単原子分子理想気体における内部エネルギー UU は,U=32nRTU=\dfrac{3}{2}nRT 二原子分子理想気体における内部エネルギー UU は,U=52nRTU=\dfrac{5}{2}nRT

ただし,nn は気体の物質量,RR は気体定数,TT は温度である。

ここでは内部エネルギーについて,その意味や定義,頻出の公式について解説します。

内部エネルギーとは

内部エネルギーは,物体内部の分子の運動エネルギーと分子間力によるポテンシャルエネルギーから構成されます。つまり,運動エネルギーを EkE_{k},ポテンシャルエネルギーを EpE_{p} として, U=N(分子のEk+N(分子間力によるEp=N12mv2+ϵ+N(分子間力によるEp=N12mvˉ2+ϵ+N(分子間力によるEp \begin{aligned} U&=\sum_{N}{(分子のE_{k})}+\sum_{N}{(分子間力によるE_{p})} \\ &=\sum_{N}{(\dfrac{1}{2}mv^{2}+\epsilon_{内})}+\sum_{N}{(分子間力によるE_{p})} \\ &=\sum_{N}{(\dfrac{1}{2}m\bar{v}^{2}+\epsilon_{内})}+\sum_{N}{(分子間力によるE_{p})} \\ \end{aligned}

12mvˉ2\dfrac{1}{2}m\bar{v}^{2} は分子1個の並進運動(分子が回転しない運動)の平均運動エネルギー,つまり重心の平均運動エネルギーです。

ϵ\epsilon_{内} は内部運動の運動エネルギーです。ϵ\epsilon_{内}H2H_{2} などの二原子分子や H2OH_{2}O などの多原子分子の回転運動,または分子間距離の伸縮による振動運動で生じます。

理想気体内部エネルギーの公式と具体的な求め方

理想気体では分子間力は働かないので,上式の第2項は無視できます。

ここで,平均運動エネルギーの式から12mvˉ2=12mvˉx2+12mvˉy2+12mvˉz2=32kBT\dfrac {1}{2}m \bar v^{2}=\dfrac {1}{2}m \bar v^{2}_{x}+\dfrac {1}{2}m \bar v^{2}_{y}+\dfrac {1}{2}m \bar v^{2}_{z}=\dfrac {3}{2}k_{B}T

分子どうしの衝突によって並進運動と内部運動の間にもエネルギー交換が生じます。また,平衡状態では 12mvˉ2\dfrac{1}{2}m\bar v^{2}ϵ\epsilon_{内} は温度によって定まる一定比をなすと考えられます。

エネルギー等配分則(等分配則)により,並進運動には xxyyzz 各成分の3方向の運動(自由度3)に対して,それぞれ 12kBT\dfrac {1}{2}k_{B}T ずつ与えられています。

これと同様に,内部運動にも 12kBT\dfrac {1}{2}k_{B}Tff 個(ff:内部運動のみかけの自由度)与えられているとすると, U=N(12mvˉ2+ϵ)=N(3+f)×12kBT=3+f2nNAkBT \begin{aligned} U&=N(\dfrac{1}{2}m\bar v^{2}+\epsilon_{内}) \\ &=N(3+f)\times\dfrac{1}{2}k_{B}T \\ &=\dfrac{3+f}{2}nN_{A}k_{B}T \end{aligned}

特に単原子分子理想気体では内部運動がなく,f=0f=0 なので,U=32nRT(1)U=\dfrac{3}{2}nRT \tag{1}

内部エネルギー UU が温度 TT のみの関数になります。

また,直線型の二原子分子理想気体では,二乗平均速度と平均運動エネルギーの「二原子分子や多原子分子の運動エネルギー」の節を参照すれば,f=2f = 2 であり, U=52nRT(2) U = \dfrac{5}{2}nRT \tag{2} となります。

(1),(2)(1),(2) 式は特に重要なのでよく覚えておきましょう。

単原子分子理想気体の公式の利用

ではこの公式の利用方法を簡単にみてみます。

圧力が pp,体積が VV (これを状態1とする)である nn モルの単原子分子理想気体を,圧力が 2p2p,体積が 3V3V (これを状態2とする)となるように変化させた。内部エネルギーは何倍になったか。

公式の中には温度しか登場しませんでしたが,問題では圧力と体積のみが与えられています。仕方ないので,状態方程式(→ボイル・シャルルの法則と状態方程式)を使って温度に変換しましょう。

状態1における温度を T1T_1 とすると,状態方程式より, pV=nRT1T1=pVnR pV = nRT_1\\ \therefore T_1 = \dfrac{pV}{nR} また,状態2における温度を T2T_2 とすると,状態方程式より, 6pV=nRT2T2=6pVnR 6pV = nRT_2\\ \therefore T_2 = \dfrac{6pV}{nR} よって, T2T1=6 \dfrac{T_2}{T_1} = 6 より,66 倍になったと言うことができます。

「仕事とエネルギーの関係」という観点での議論

ここでは内部エネルギーを仕事とエネルギーの関係から考えましょう。

「エネルギー保存の法則」は,物理学のどんな分野においても最も重要な法則として認められています。熱力学では,エネルギーが勝手に生じたり消えたりすることはないという実験則をもとに,熱力学第一法則として定式化されました。熱力学第一法則について詳しくは別の記事で紹介します。熱力学においてはこの法則は「仮定」であり,何かから導出できるようなものではありません。熱力学第一法則は以下のように表せます。 dU=δQ+dW dU = \delta Q + d W ここで dUdU は内部エネルギーの変化量,dWdW は系に与えられた仕事です。δQ\delta Q は系に与えられた「熱」を表します。

熱力学では,熱は 「仕事以外で,内部エネルギーを変化させるもの」 という定義がなされます。熱の定義に関して理解が甘い人が多いので,よく理解しておきましょう。熱は熱力学第一法則があって初めて定式化されるということです。