二乗平均速度と平均運動エネルギー

気体分子運動論において,単原子分子理想気体では以下の関係が成り立つ。

vˉ2=3RTM\sqrt{\bar v^{2}}=\sqrt{\dfrac{3RT}{M}}

ここで,vˉ2\sqrt{\bar v^{2}} を根二乗平均速度と呼ぶ。

また,質量 mm の1単原子分子が持つ平均運動エネルギーは,

12mvˉ2=32kBT\dfrac {1}{2}m \bar v^{2}=\dfrac {3}{2}k_{B}T

ただし,RR は気体定数,TT は温度,MM は分子量,kBk_{B} はボルツマン定数である。

ここでは気体分子運動論で登場する(根)二乗平均速度と平均運動エネルギーについて解説します。

根二乗平均速度

根二乗平均速度 vˉ2\sqrt{\bar v^{2}} は,気体分子の平均の速度を示す指標となる量です。これについて,まずは冒頭で登場した式を導出してみましょう。

気体分子運動論から得られる式 PV=13Nmvˉ2PV=\dfrac{1}{3}Nm\bar v^{2} と,状態方程式 PV=nRTPV=nRT から,12mvˉ2=32RNAT\dfrac {1}{2}m \bar v^{2}=\dfrac {3}{2}\dfrac {R}{N_{A}}T

ただし,NAN_{A} はアボガドロ数です。これを vˉ2\bar v^{2} について解くと,vˉ2=3RTmNA\bar v^{2}=\dfrac{3RT}{mN_{A}}

ここで mNA=MmN_{A}=M より,vˉ2=3RTM\sqrt{\bar v^{2}}=\sqrt{\dfrac{3RT}{M}}

これで冒頭の式が得られました。この式は,分子量が大きい(=分子が重い)ほど,vˉ2\sqrt{\bar v^{2}} は小さく,また温度 TT が大きいほど,vˉ2\sqrt{\bar v^{2}} が大きいことを示しています。

平均運動エネルギー

気体分子運動論において,気体分子の運動エネルギーは,分子1個の並進運動(分子が回転しない運動)のエネルギー,すなわち重心の運動エネルギーを示します。

先ほど登場した式 12mvˉ2=32RNAT\dfrac {1}{2}m \bar v^{2}=\dfrac {3}{2}\dfrac {R}{N_{A}}T において,ボルツマン定数を kBk_{B} を,kB=RNAk_{B}=\dfrac {R}{N_{A}} と定義して,単原子分子理想気体の平均運動エネルギーは次のように表せます。

12mvˉ2=32kBT\dfrac {1}{2}m \bar v^{2}=\dfrac {3}{2}k_{B}T

この式から,理想気体の運動エネルギーはその温度にのみ依存することが分かります。「運動エネルギー」と「温度」を結びつけている,大変面白い式です。

気体の内部エネルギーと平均運動エネルギー

理想気体においては,分子間力はないとみなすので,気体の内部エネルギー UU と理想気体の平均運動エネルギーの総和は一致します。つまり,U=N12mvˉ2=N32kBTU=N\dfrac {1}{2}m \bar v^{2}=N\dfrac {3}{2}k_{B}T

N=nNAN=nN_{A} より,U=32nRTU=\dfrac{3}{2}nRT

エネルギー等配分則

気体分子運動論において,理想気体の速度分布は等方的(特定の方向に分布が依存しない)なので,vˉx2=vˉy2=vˉz2\bar v^{2}_{x}=\bar v^{2}_{y}=\bar v^{2}_{z}

また,平均運動エネルギーの式は,以下のように変形できます。 12mvˉ2=12mvˉx2+12mvˉy2+12mvˉz2=32kBT\dfrac {1}{2}m \bar v^{2}=\dfrac {1}{2}m \bar v^{2}_{x}+\dfrac {1}{2}m \bar v^{2}_{y}+\dfrac {1}{2}m \bar v^{2}_{z}=\dfrac {3}{2}k_{B}T

上記2式より,{12mvˉx2=12kBT12mvˉy2=12kBT12mvˉz2=12kBT \begin{cases} \dfrac {1}{2}m \bar v^{2}_{x}=\dfrac {1}{2}k_{B}T \\ \dfrac {1}{2}m \bar v^{2}_{y}=\dfrac {1}{2}k_{B}T \\ \dfrac {1}{2}m \bar v^{2}_{z}=\dfrac {1}{2}k_{B}T \\ \end{cases}

つまり,xxyyzz 方向それぞれにエネルギーが等配分されていることが分かります。このことをエネルギー等配分則といいます(エネルギー等分配則とも言います)。

より厳密には,エネルギーは系の自由度ごとに等分配されます。

気体分子運動論における自由度は3(xxyyzz の各座標に対応)なので,エネルギーは3等分されます。

二原子分子や多原子分子の運動エネルギー

二原子分子や多原子分子の運動エネルギーも考えてみましょう。

例えば,水素のような二原子分子の平均運動エネルギーは 52kBT\dfrac{5}{2}k_{B}T です。

これは,単原子分子の並進の運動エネルギー 32kBT\dfrac{3}{2}k_{B}T に加えて,回転の運動エネルギー kBTk_{B}T が加わっているからです。

これを理解するために,二つ以上の原子からなる分子の自由度を考えます。

単原子分子とは異なり,二つ以上の原子からなる分子では回転運動と振動運動も考える必要があります。これらの運動の自由度が,並進運動の自由度に加算されます。

nn 個の原子から成る分子の,それぞれの運動による自由度は次の表のようになります。分子の原子数や形状による自由度の違いについては,「気体の内部エネルギーと理想気体の自由度」を参考にしてください。

分子の形 並進 回転 振動
直線型 3 2 3n-5
非直線型 3 3 3n-6

エネルギー等配分則に従い,並進と回転については1自由度あたり 12kBT\dfrac{1}{2}k_{B}T のエネルギーが配分されます。

一方,振動運動については,温度や原子間の結合の強さによってエネルギーへの寄与の大きさが大きく変わってきます。ここは少々ややこしいのですが,少なくとも高校物理で扱う分子においては,振動のエネルギーへの寄与は無視できます

したがって,振動のエネルギーを考えなければ,直線型分子の並進と回転の自由度の合計は5なので,運動エネルギーは 52kBT\dfrac{5}{2}k_{B}T

同様に,非直線型分子の運動エネルギーは 3kBT3k_{B}T です。

気体分子運動論さえ理解していれば,二乗平均速度も平均運動エネルギーも怖くありません。