定常波・合成波・重ね合わせの原理

定常波とは, 逆向きに進行する振幅・周期・波長が等しい2つの進行波が重なり合うことによって生成される, 時刻によらずにその場にとどまっているように見える波のことです。

以下では定常波の原理について解説します。

重ね合わせの原理

波動分野における「重ね合わせの原理」とは, 2つの波がぶつかった時に合成される波の式がもとの2つの波の式の足し算で表されるという原理です。

重ね合わせの原理

波源1, 波源2からの波をそれぞれ y1y_1, y2y_2 とする。

2つの波 y1y_1, y2y_2 がぶつかってできる合成波 yy

y=y1+y2 y = y_1 + y_2

で表される。

合成波はもとの2つの波の式のシンプルな足し算で表すことができるという美しい原理です。

以下では「重ね合わせの原理」を用いて2つの波の合成波について考えていきます。

※大学の物理学の授業で「波動方程式」を学習すると、その波動方程式の2解 u1u_1, u2u_2 の線形和 u1+u2u_1 + u_2 もまた波動方程式の解となることがすぐにわかります。これが重ね合わせの原理の背景テーマです。

2つの波の合成

定常波を理解するためには2つの波の合成について理解しておく必要があります。

波は「向き」をもったベクトル量です。

波源1からの波 u1undefined\overrightarrow{u_1} と波源2からの波 u2undefined\overrightarrow{u_2} の合成波 uundefined\overrightarrow{u} について考えてみましょう。

それぞれの波を

波1: u1undefined=(x1y1)=a1(cosθ1sinθ1)\overrightarrow{u_1} = \begin{pmatrix}x_1 \\ y_1 \end{pmatrix} = a_1 \begin{pmatrix}\cos \theta_1 \\ \sin \theta_1 \end{pmatrix}

波2: u2undefined=(x2y2)=a2(cosθ2sinθ2)\overrightarrow{u_2} = \begin{pmatrix}x_2 \\ y_2 \end{pmatrix} = a_2 \begin{pmatrix}\cos \theta_2 \\ \sin \theta_2 \end{pmatrix}

とベクトル表示しましょう。

合成波 uundefined\overrightarrow{u} は重ね合わせの原理によって

uundefined=u1undefined+u2undefined=a1(cosθ1sinθ1)+a2(cosθ2sinθ2) \begin{aligned} \overrightarrow{u} &= \overrightarrow{u_1} + \overrightarrow{u_2} \\ &= a_1 \begin{pmatrix}\cos \theta_1 \\ \sin \theta_1 \end{pmatrix} + a_2 \begin{pmatrix}\cos \theta_2 \\ \sin \theta_2 \end{pmatrix} \end{aligned}

と表せます。

合成波が uundefined=a(cosθsinθ)\overrightarrow{u} = a\begin{pmatrix} \cos \theta \\ \sin \theta \end{pmatrix} と表せるとします。

合成波 uundefined\overrightarrow{u} の振幅 aa

a2=u1undefined+u2undefined2=u1undefined2+2u1undefinedu2undefined+u2undefined2=a12+a22+2a1a2(cosθ1cosθ2+sinθ1sinθ2)=a12+a22+2a1a2cosϕ(ϕ=θ1θ2) \begin{aligned} a^2 &= |\overrightarrow{u_1} + \overrightarrow{u_2}|^2 \\ &= |\overrightarrow{u_1}|^2 + 2 \overrightarrow{u_1} \cdot \overrightarrow{u_2} + |\overrightarrow{u_2}|^2 \\ &= a_1 ^2 + a_2 ^2 + 2 a_1 a_2(\cos \theta_1 \cos \theta_2 + \sin \theta_1 \sin \theta_2) \\ &= a_1 ^2 + a_2 ^2 + 2 a_1 a_2 \cos \phi \quad(\phi = \theta_1 - \theta_2) \end{aligned}

で表されます。

この式の途中で登場した ϕ=θ1θ2\phi = \theta_1 - \theta_2 を「位相差」とよびます。

上の式をよく見ると, 右辺の変数は位相差 ϕ\phi のみだと気がつきます。合成波の振幅 aa は位相差 ϕ\phi の関数であるとも言えます。

以下では位相差 ϕ\phi の取りうる値ぞれぞれについて, その時の合成波の振幅 aa がどうなるのかについて詳しく説明していきます。

波の干渉

位相差 ϕ\phi がある決まった値をとる時について考えてみましょう。高校物理の問題に出題されるのはほとんどがこのケースです。

波の干渉

合成波の振幅

a2=a12+a22+2a1a2cosϕ a^2 = a_1 ^2 + a_2 ^2 + 2 a_1 a_2 \cos \phi

について, その最大値を amaxa_{max}と表す。

(i)(i) 位相差 ϕ=2mπ\phi = 2m \pimm: 整数)のとき,

amax=a1+a2a_{max} = a_1 + a_2

このとき, 「2つの波は強め合う」という。

(ii)(ii) 位相差 ϕ=(2m+1)π\phi = (2m + 1) \pimm: 整数)のとき,

amax=a1a2a_{max} = |a_1 - a_2|

このとき, 「2つの波は弱め合う」という。

このように, 2つの波が互いに強め合ったり弱めあったりする現象を「波の干渉」といいます。

位相差がランダムに変化する場合

位相差 ϕ\phi が確定値をとらずランダムに変動する時, 観測される各物理量の観測値はランダムな値の平均値になると考えます。

波の振幅は

a2=a12+a22+2a1a2cosϕ=a12+a22 \begin{aligned} \overline{a}^2 &= a_1 ^2 + a_2 ^2 + 2 a_1 a_2 \overline{\cos \phi} \\ &= a_1 ^2 + a_2 ^2 \end{aligned}

に近い値が観測されることがわかります。

この場合には2つの波は干渉しません。

定常波の原理

冒頭で述べたように, 定常波とは, 逆向きに進行する振幅・周期・波長が等しい2つの進行波が重なり合うことによって生成される, 時刻によらずにその場にとどまっているように見える波のことです。

前節まで2つの波の合成について解説しましたが, その内容を理解していればこの先で定常波のことを深く理解することができます。

早速, 逆向きに進行する振幅・周期・波長が等しい2つの進行波 y1(x,y)y_1(x,y), y2(x,y)y_2(x,y) を用意してみましょう。

y1(x,y)=asin{2π(ftxλ)+α1}y2(x,y)=asin{2π(ft+xλ)+α2} y_1(x,y) = a \sin \left\{ 2 \pi \left( ft - \dfrac{x}{\lambda} \right) + \alpha_1 \right\} \\ y_2(x,y) = a \sin \left\{ 2 \pi \left( ft + \dfrac{x}{\lambda} \right) + \alpha_2 \right\}

これらの逆向きに進行する振幅・周期・波長の等しい2つの進行波の合成波 y(x,t)y(x,t) は, 重ね合わせの原理によって

y(x,t)=y1(x,y)+y2(x,y)=2acos(2πxλ+α2α12)sin(2πft+α2+α12) \begin{aligned} y(x,t) &= y_1(x,y) + y_2(x,y) \\ &= 2a \cos \left( 2 \pi \dfrac{x}{\lambda} + \dfrac{\alpha_2 - \alpha_1}{2} \right) \sin \left( 2 \pi ft + \dfrac{\alpha_2 + \alpha_1}{2} \right) \end{aligned}

と表すことができます。

定常波の腹と節

改めて定常波の式を書いてみましょう。

定常波の式

y(x,t)=2acos(2πxλ+α2α12)sin(2πft+α2+α12) y(x,t) = 2a \cos \left( 2 \pi \dfrac{x}{\lambda} + \dfrac{\alpha_2 - \alpha_1}{2} \right) \sin \left( 2 \pi ft + \dfrac{\alpha_2 + \alpha_1}{2} \right)

特に, 初期位相 α1=α2=0\alpha_1 = \alpha_2 = 0 の場合は

y(x,t)=2acos(2πxλ)sin(2πft) y(x,t) = 2a \cos \left( 2 \pi \dfrac{x}{\lambda} \right) \sin \left( 2 \pi ft \right)

この式をよく眺めると

  1. cos( )\cos(\ ) の中身は xx の関数であって, tt の関数ではない
  2. sin( )\sin(\ ) の中身は tt の関数であって, xx の関数ではない

という性質があることがわかります。

すなわち, 位置 xx における波の振幅 A(x)A(x)

A(x)=2acos(2πxλ+α2α12) A(x) = 2a \left| \cos \left( 2 \pi \dfrac{x}{\lambda} + \dfrac{\alpha_2 - \alpha_1}{2} \right) \right|

で与えられることがわかります。

この振幅の表式 A(x)A(x) をよく見ると, 以下の2点に気がつきます。

  1. A(x)A(x) の最大値は 2a2a で, 最大値をとる位置 xx が飛び飛びに存在する
  2. A(x)=0A(x) = 0 となる位置 xx が飛び飛びに存在する

この2点からわかる「定常波の腹と節」という概念が定常波で最も重要な性質なのです。

定常波の腹と節

位置 xx における定常波の振幅は以下の式で与えられる。

A(x)=2acos(2πxλ+α2α12) A(x) = 2a \left| \cos \left( 2 \pi \dfrac{x}{\lambda} + \dfrac{\alpha_2 - \alpha_1}{2} \right) \right|

(i)(i) 定常波の腹

2πxλ+α2α12=nπ(n:整数)A(x)=2a 2 \pi \dfrac{x}{\lambda} + \dfrac{\alpha_2 - \alpha_1}{2} = n \pi \quad (n: \text{整数}) \\ \quad A(x) = 2a

を満たす位置 xx定常波の腹という。

(ii)(ii) 定常波の節

2πxλ+α2α12=(n+12)π(n:整数)A(x)=0 2 \pi \dfrac{x}{\lambda} + \dfrac{\alpha_2 - \alpha_1}{2} = (n + \dfrac{1}{2}) \pi \quad (n: \text{整数}) \\ A(x) = 0

を満たす位置 xx定常波の節という。

このように定常波には腹と節と呼ばれる特徴的な位置があります。

その定義通り

  1. 腹: 最も振幅が大きい点
  2. 節: 時刻によらず常に振れ幅が 00 となる点 :A(x)=0: A(x) = 0

という意味です。

初期位相 α1,α2\alpha_1, \alpha_2 がない場合には定常波の腹と節の位置はもっとシンプルに表すことができます。

腹と節の位置(初期位相がない場合)

初期位相 α1=α2=0\alpha_1 = \alpha_2 = 0 の場合は

(i)(i) 定常波の腹の位置

x=λ2×n x_{\text{腹}} = \dfrac{\lambda}{2} \times n

(ii)(ii) 定常波の節の位置

x=λ2×(n+12) x_{\text{節}} = \dfrac{\lambda}{2} \times (n + \dfrac{1}{2})

腹の位置, 節の位置はそれぞれ半波長 λ2\dfrac{\lambda}{2} ごとに繰り返されることがわかります。

また xx=λ4x_{\text{節}} - x_{\text{腹}} = \dfrac{\lambda}{4} であることから腹と節は 14\dfrac{1}{4}波長 (λ4)\left( \dfrac{\lambda}{4} \right) ごとに交互に並ぶこともわかります。

定常波の様子

定常波の様子やその腹・節の位置は動きを見ることでより理解しやすくなります。

以下のgif画像は定常波を表しています。

定常波のgif画像

gif画像では二つの波

y1(x,y)=4sin{2π(0.5tx2π)}y2(x,y)=4sin{2π(0.5t+x2π)} y_1(x,y) = 4 \sin \left\{ 2 \pi \left( 0.5t - \dfrac{x}{2 \pi} \right) \right\} \\ y_2(x,y) = 4 \sin \left\{ 2 \pi \left( 0.5t + \dfrac{x}{2 \pi} \right) \right\}

の重ね合わせで得られる合成波

y(x,t)=8cos(x)sin(πt) y(x,t) = 8 \cos \left( x \right) \sin \left( \pi t \right)

を描いています。

腹・節の位置は

x=nπx=(n+12)π x_{\text{腹}} = n \pi \\ x_{\text{節}} = (n + \dfrac{1}{2}) \pi

です。

  1. 腹の振幅は最大
  2. 節の振幅は0
  3. 腹は半波長 λ2\dfrac{\lambda}{2} ごとに繰り返される
  4. 節は半波長 λ2\dfrac{\lambda}{2} ごとに繰り返される
  5. 腹と節は 14\dfrac{1}{4}波長 (λ4)\left( \dfrac{\lambda}{4} \right) ごとに交互に並ぶ

前節で説明したこれらの定常波の「腹」と「節」と特徴・その位置関係について, 理解しておきましょう。

百敷や ふるき軒端の しのぶにも なほあまりある 昔なりけり ー 順徳院(1197-1242)

永遠に栄えると思われた朝廷が衰えてしまって古き良き時代のこととなってしまったことを嘆く歌。永遠に続くと思われた定常波ですら現実的には空気抵抗などを受けて減衰します。