相対性理論において有名なパラドックスの一つに「双子のパラドックス」というものがあります。
地球上の双子 A,B が時刻を合わせた時計を携帯しています。B は光速と比べることのできるくらい速い速度の出るロケットに乗って,宇宙旅行をし,帰還します。
帰還した後,A,B は互いの時計を見せ合います。
地球上の A から考えると,自分は静止しており,B は運動していたため,B の時計のほうが遅れるはずです。しかし,B から考えると,自分は静止しており,A は運動していたため,A の時計の方が遅れるはずです。
これは矛盾してしまいます。
固有時の考え方を利用すると,このパラドックスの解決策の一つを示すことができます。
無重力空間上に,ある静止した宇宙ステーションがあるとします。
無重力であるから,宇宙ステーションには慣性系がとれます。固有時の表現は特殊相対論のときと同じです。
さらに,等加速度運動するロケットを考えます。宇宙ステーションの座標を (ct,x,y,z),ロケットの座標を (ct′,x′,y′,z′) とします。
x(x′) 方向の運動のみを考えます。t=−T, t′=−T′ のとき,x=x′=0 とし,またロケットが宇宙ステーションのもとに帰ってくる時刻,つまり再び x=x′=0 となる時刻を t=T, t′=T′ とします。
宇宙ステーションを通過したときのイベントを P,戻ってきたときのイベントを Q とよぶことにします。
宇宙ステーションの慣性系における固有時は
dτ=1−c2v2dt
で表されます。P と Q の間の,宇宙ステーションの固有時間間隔を τ1,ロケットの固有時間間隔を τ2 と表すことにします。τ1,τ2
が双子の持つ時計の進み具合に全く一致します。これらを求めることを考えましょう。
まず,τ1 は簡単で,
τ1=∫−TT1−c202dt=2T
となります。
ロケットの速度については,
v(t)=1+(cgt)2gt
これより,
τ2=∫−TT1−c2v(t)2dt=2gcsinh−1(cgT)=2gclog⎝⎛cgT+1+(cgT)2⎠⎞
ここで,一般に x>0 に対し,
x>log(x+x2+1)
が成立することから,
τ1>τ2
が成立します。これにより,ロケットにのった方の時計が,宇宙ステーションにある時計よりも遅れることになります。固有時の導入により,複雑なパラドックスの計算もこなすことができました。
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