【解答・解説】北大前期物理2025 第3問 -波動-

2025年度の北大前期物理第3問を解説します。波動の単元です。 なお,この記事に関する責任は,全て当ウェブサイトに属します。また,解説・解答等は,全て当ウェブサイトが独自に作成したものです。

問題

以下の問題文および図は,2025年度北海道大学前期日程入試問題物理第3問から引用しています(一部ライターが修正・変更した部分があります)。

第3問

以下の (1)\fbox{(1)}(11)\fbox{(11)} に適切な数式または数値を入れよ。 また,(あ)\fbox{(あ)}(い)\fbox{(い)} には選択肢から適切なものをすべて選んで,その記号を記入せよ。

問1 図 1 のように,単振動をする波源から xx 軸を正の向きにある速さで伝わる振幅 aa [m] の正弦波について考える。

hp25-3-fig1

図は時刻 t=0t = 0 s での位置 xx [m] における正弦波の変位を表している。 正弦波の周期は TT [s],波長は λ\lambda [m] とする。 原点 O (x=0x = 0 m) での変位が時間 (2)\fbox{(2)} [s] だけ遅れて伝わると考えてよいので,時刻 tt,位置 xx における変位は (3)\fbox{(3)} [m] と表せる。

次に,図 2 のように点 H の位置に壁を置いた場合を考える。

hp25-3-fig2

時刻 t=0t = 0 s で上記の正弦波がこの壁に達したとする。 入射する正弦波は点 H で固定端反射し,反射した正弦波と入射する正弦波との合成波が生じた。固定端では,反射波の位相は入射波の位相に対して (あ)\fbox{(あ)}。反射波は点 H から xx 軸を負の向きに入射波と同じ速さで伝わり,点 H の左側にある位置 xx での変位は点 H での変位が時間 (4)\fbox{(4)} [s] だけ離れて伝わると考えてよいので,反射波が通過した後の時刻 tt において,点 H の左側にある位置 xx における反射波の変位は (5)\fbox{(5)} [m] と表せる。 この反射波と入射波の合成波の振幅の最大値は (6)\fbox{(6)} [m] となり,点 A 〜 G のうち点 (い)\fbox{(い)} での振幅は常に 0 m となる。

(あ)\fbox{(あ)} の選択肢

  • (ア) 同位相となる
  • (イ) π2\dfrac{\pi}{2} 進む
  • (ウ) π\pi ずれる
  • (エ) π2\dfrac{\pi}{2} 遅れる

(い)\fbox{(い)} の選択肢

A (原点 O),B,C,D,E,F,G

問2 図 3 のように,空気中に境界面が水平で厚さ dd [nm] の薄膜がある。

hp25-3-fig3

薄膜の屈折率は n(>1)n (> 1) である。 この薄膜に波長 λ\lambda [nm] の光を入射角 ii [rad] で入射させると,光の一部は境界面で反射し,一部は屈折角 rr [rad] で屈折しながら進む。図の測定装置の位置でこれらの光の間の干渉を測定する。ここで空気の屈折率は 11 とし,薄膜の屈折率 nn は波長によらないものとする。ただし 11 nm = 10910^{-9} m である。

薄膜に入射し,薄膜境界で屈折した光に対して,その入射角 ii と屈折角 rr の間には (7)\fbox{(7)} の関係がなりたつ。薄膜の表面で反射した光と薄膜の底面で反射した光が強め合うときの条件は, n,d,i,λn, d, i, \lambda および 00 以上の任意の整数 mm を用いると (8)\fbox{(8)} となる。同様に,光が弱め合うときの条件は 9\fbox{9} となる。

この薄膜に,tani=1312\tan{i} = \sqrt{\dfrac{13}{12}} となる入射角 ii で光を当てた。光の波長 λ\lambda を変えながら干渉した反射光の明暗を測定すると,波長 720720 nm において光の明るさが極大を示し,波長を徐々に短くしていくと 540540 nm で極小となった。 さらに波長を短くしていくとき,次に明るさが極大になる波長の値は有効数字 2 桁で (10)\fbox{(10)} である。また薄膜の厚さが 450450 nm であったとすると,この薄膜の屈折率は有効数字 2 桁で (11)\fbox{(11)} であることがわかる。

波動の単元の問題です。定常波や光の干渉に関する典型問題の集合となっています。

解答例

問1

問 1 は入射波と反射波の合成の問題です。

(1)

時刻 tt,位置 xx での入射波の変位を fin(t,x)f_{in} (t, x) とします。また,この位置の点を X と呼ぶことにします。

x=0x = 0 のときを考えます。

hp25-3-1-1

上図の黒線は t=0t =0 での変位,赤線は tt が微小時間だけ進んだ後の変位を表しています。図より,x=0x = 0 では,t=0t = 0 から時間が少しだけ進むと,変位が + となります。これは,fin(t,0)f_{in} (t, 0)sin\sin 型の変位となることを表しています。振幅は aa であり,また周期 TT より角振動数 ω\omega は (正弦波の意味,特徴と基本公式)

ω=2πT \omega = \dfrac{2 \pi}{T}

したがって,x=0x = 0 での入射波の変位は

fin(t,0)=asin(ωt)=asin(2πtT) f_{in} (t, 0) = a \sin{(\omega t)} = a \sin{\left(2 \pi \dfrac{t}{T} \right)}

と表されます。

(2)

原点での変位が位置 xx に伝わるまでの時間 t0t_0 は,その距離を入射波の速さで割った値に等しいです。入射波の周期は TT,波長は λ\lambda であることより,この波の速度 vv は,

v=λT v = \dfrac{\lambda}{T}

ゆえに求める時間 t0t_0

t0=xv=xλT t_0 = \dfrac{x}{v} = \dfrac{x}{\lambda} T

となります。

(3)

(1)・(2) より,時刻 tt,位置 xx での変位 fin(t,x)f_{in} (t, x)

fin(t,x)=fin(tt0,0)=asin{2π(tTxλ)} \begin{aligned} f_{in} (t, x) &= f_{in} (t - t_0, 0) \\ &= a \sin{\left\{2 \pi \left( \dfrac{t}{T} - \dfrac{x}{\lambda} \right) \right\}} \end{aligned}

と表すことができます。

(あ)

固定端反射では,反射波の位相は入射波と比べて (ウ) π\pi ずれます (入射波と反射波(固定端反射・自由端反射))。

一方,自由端反射では,反射波の位相と入射波の位相にずれはありません。

(4)

図 2 より OH=74λ\text{OH} = \dfrac{7}{4} \lambda であるから,点 H で生じる反射波の変位が点 H の左側にある点 X に伝わるまでの時間 t0t_0'

t0=OHOXv=74λxλT=(74xλ)T t_0' =\dfrac{\text{OH} - \text{OX}}{v} = \dfrac{\dfrac{7}{4} \lambda - x}{\lambda} T = \left( \dfrac{7}{4} - \dfrac{x}{\lambda} \right) T

と求められます。

(5)

時刻 tt,位置 xx での反射波の位相を fre(t,x)f_{re} (t, x) とします。

まず,時刻 tt,位置 x=xH=74λx = x_H = \dfrac{7}{4} \lambda で反射波の位相 fre(t,xH)f_{re} (t, x_H) を求めます。

まず,時刻 tt,位置 xHx_H での入射波の位相は,(3) の答に代入して

fin(t,xH)=asin{2π(tT74)}=asin(2πtT72π)=asin(2πtT+π2)=acos(2πtT) \begin{aligned} f_{in} (t, x_H) &= a \sin{\left\{2 \pi \left( \dfrac{t}{T} - \dfrac{7}{4} \right) \right\}} \\ &= a \sin{\left( 2 \pi \dfrac{t}{T} - \dfrac{7}{2} \pi \right)} \\ &= a \sin{\left( 2 \pi \dfrac{t}{T} + \dfrac{\pi}{2} \right)} \\ &= a \cos{\left( 2 \pi \dfrac{t}{T} \right)} \end{aligned}

時刻 tt,位置 xHx_H での反射波の位相は π\pi だけずれるので

fre(t,xH)=acos(2πtT+π)=acos(2πtT) f_{re} (t, x_H) = a \cos{\left( 2 \pi \dfrac{t}{T} + \pi \right)} = - a \cos{\left( 2 \pi \dfrac{t}{T} \right)}

さらに,(4) より,時刻 tt,位置 xHx_H での反射波の変位は

fre(t,x)=fre(tt0,xH)=acos{2π(tT+xλ74)}=acos{2π(tT+xλ)+π2}=asin{2π(tT+xλ)} \begin{aligned} f_{re} (t, x) &= f_{re} (t - t_0', x_H) \\ &= - a \cos{\left\{2 \pi \left( \dfrac{t}{T} + \dfrac{x}{\lambda} - \dfrac{7}{4} \right) \right\}} \\ &= - a \cos{\left\{2 \pi \left( \dfrac{t}{T} + \dfrac{x}{\lambda} \right) + \dfrac{\pi}{2} \right\}} \\ &= a \sin{\left\{2 \pi \left( \dfrac{t}{T} + \dfrac{x}{\lambda} \right) \right\}} \end{aligned}

(6)

時刻 tt,位置 xx での入射波と反射波の合成波の変位 g(t,x)g (t, x)

g(t,x)=fin(t,x)+fre(t,x)=asin{2π(tTxλ)}+asin{2π(tT+xλ)} \begin{aligned} g (t, x) &= f_{in} (t, x) + f_{re} (t, x) \\ &= a \sin{\left\{2 \pi \left( \dfrac{t}{T} - \dfrac{x}{\lambda} \right) \right\}} + a \sin{\left\{2 \pi \left( \dfrac{t}{T} + \dfrac{x}{\lambda} \right) \right\}} \\ \end{aligned}

簡単のため 2πtT=θt,2πxλ=θx2 \pi \dfrac{t}{T} = \theta_t, 2 \pi \dfrac{x}{\lambda} = \theta_x とおくと

g(t,x)=asin(θt+θx)+asin(θtθx)=2asinθtcosθx \begin{aligned} g (t, x) &= a \sin{(\theta_t + \theta_x)} + a \sin{(\theta_t - \theta_x)} \\ &= 2 a \sin{\theta_t} \cos{\theta_x} \end{aligned}

ゆえに,合成波の振幅の最大値は 2a2a となります。

(い)

合成波の振幅が時刻 tt によらず常に 00 となるためには

cosθx=cos(2πxλ)=0 \cos{\theta_x} = \cos{\left( 2 \pi \dfrac{x}{\lambda} \right)} = 0

点 A 〜 G,すなわち 0xλ320 \leq \dfrac{x}{\lambda} \leq \dfrac{3}{2} の範囲で,上式を満たす xx

xλ=14,34,54 \dfrac{x}{\lambda} = \dfrac{1}{4}, \dfrac{3}{4}, \dfrac{5}{4}

点 A 〜 G で表現すると,点 B,D,F となります。

(注)点 H も合成波の振幅が常に 0 となります。 問題文の指定では除かれているため注意してください。

問 2

問 2 は光の干渉の問題です。

(7)

屈折の法則 (反射の法則・屈折の法則) より,図 3 の入射角 ii と屈折角 rr の間には

1sin(i)=nsin(r)sin(i)=nsin(r) 1 \sin{(i)} = n \sin{(r)} \quad \therefore \sin{(i)} = n \sin{(r)}

が成り立ちます。

(8)

薄膜の表面で反射した光と薄膜の底面で反射した光が強め合う条件を考えます。

ここで,光が屈折率の異なる2つの媒質 A・B (屈折率 na,nbn_a, n_b) の境界で反射するときの位相のずれについて考えます。いま光が媒質 A から入射するとすると

  • na>nbn_a > n_b ならば入射波と反射波の位相にずれは生じない

  • na<nbn_a < n_b ならば入射波と反射波の位相は π\pi ずれる

ことに注意します。

hp25-3-8

上図より,薄膜の表面で反射した光は入射波と反射波の位相が π\pi ずれますが,薄膜の底面で反射した光は入射波と反射波の位相にずれは生じません。したがって,この2つの反射光が強め合う条件は,これら2つの光の経路差が (整数 + 1/2) × 波長となることです。

ここで,図 3 より,これらの光の経路差 Δ\Delta として考えるべき経路はすべて薄膜内となるので,基準とすべき波長も薄膜内のものとなります。それを λ\lambda' とすると,屈折の法則より

1λ=nλλ=λn 1 \cdot \lambda = n \cdot \lambda' \quad \therefore \lambda' = \dfrac{\lambda}{n}

ゆえに光が強め合う条件は,00 以上の任意の整数 mm を用いて

Δλ=nΔλ=m+12 \dfrac{\Delta}{\lambda'} = n \dfrac{\Delta}{\lambda} = m + \dfrac{1}{2}

図 3 より

Δ=2dcos(r)=2d1sin2(r)=2d11n2sin2(i) \begin{aligned} \Delta &= 2d \cos{(r)} \\ &= 2d \sqrt{1 - \sin^2{(r)}} \\ &= 2d \sqrt{1 - \dfrac{1}{n^2} \sin^2{(i)}} \end{aligned}

となるので,代入・整理して

2dλn2sin2(i)=m+12 \dfrac{2d}{\lambda} \sqrt{n^2 - \sin^2{(i)}} = m + \dfrac{1}{2}

となります。

(9)

2 つの反射光が弱め合う条件は,(8) と同様に考えることで,2つの光の経路差が整数 × 波長となるときとなります。(8)と同じように式で表現すると

2dλn2sin2(i)=m \dfrac{2d}{\lambda} \sqrt{n^2 - \sin^2{(i)}} = m

と表されます。

(10)

λ=720\lambda = 720 [nm] のときに光が強め合ったことを式で表すと,ある整数 kk を用いて

2d720[nm]n2sin2(i)=k+12(1) \dfrac{2d}{720 [nm]} \sqrt{n^2 - \sin^2{(i)}} = k + \dfrac{1}{2} \tag{1}

と表されます。

波長を徐々に短くして λ=540\lambda = 540 [nm] としたときに光の明るさが極少となったことから,このときの光の弱め合いの条件は

2d540[nm]n2sin2(i)=k+1(2) \dfrac{2d}{540 [nm]} \sqrt{n^2 - \sin^2{(i)}} = k + 1 \tag{2}

さらに波長を短くしていき,次に光が強め合うような光の波長を λ1\lambda_1 とすると,このときの光の強め合いの条件は,整数 kk を用いて

2dλ1[nm]n2sin2(i)=k+32(3) \dfrac{2d}{\lambda_1 [nm]} \sqrt{n^2 - \sin^2{(i)}} = k + \dfrac{3}{2} \tag{3}

これらを n,k,λn, k, \lambda の連立方程式とみて,解いていきましょう。

まず,λ1\lambda_1 を求めます。(2) 式 ÷(1) 式より

2d540×7202d=720540=43=k+1k+12=2k+22k+1 \dfrac{2d}{540} \times \dfrac{720}{2d} = \dfrac{720}{540} = \dfrac{4}{3} = \dfrac{k + 1}{k + \dfrac{1}{2}} = \dfrac{2k + 2}{2k + 1}

k=1(4) \therefore k = 1 \tag{4}

一方 (1) 式 ÷(3) 式より

2d720×λ12d=λ1720=k+32k+12=2k+32k+1 \dfrac{2d}{720} \times \dfrac{\lambda_1}{2d} = \dfrac{\lambda_1}{720} = \dfrac{k + \dfrac{3}{2}}{k + \dfrac{1}{2}} = \dfrac{2k + 3}{2k + 1}

(4) 式を代入して

λ1720=53λ1=432[nm] \dfrac{\lambda_1}{720} = \dfrac{5}{3} \quad \therefore \lambda_1 = 432 [\text{nm}]

有効数字 2 桁で求めると,4.3×1024.3 \times 10^2 [nm] となります。

(11)

再び (1) 式に戻ります。問題文より d=450d = 450 [nm] とわかっています。

hp25-3-2-11

また,角度 ii については,問題文より tan(i)=1312\tan{(i)} = \sqrt{\dfrac{13}{12}} とわかっているので

sin(i)=135 \sin{(i)} = \dfrac{\sqrt{13}}{5}

これらを (1) 式に代入して

900540n2(135)2=54n21225=1+12=32 \dfrac{900}{540} \sqrt{n^2 - (\dfrac{\sqrt{13}}{5})^2} = \dfrac{5}{4} \sqrt{n^2 - \dfrac{12}{25}} = 1 + \dfrac{1}{2} = \dfrac{3}{2}

n21325=45×32=65 \therefore \sqrt{n^2 - \dfrac{13}{25}} = \dfrac{4}{5} \times \dfrac{3}{2} = \dfrac{6}{5}

n>0n > 0 より

n=1325+(65)2=4925=75=1.4 \begin{aligned} n &= \sqrt{\dfrac{13}{25} + \left( \dfrac{6}{5} \right)^2} \\ &= \sqrt{\dfrac{49}{25}} = \dfrac{7}{5} = 1.4 \end{aligned}

有効数字 2 桁で求めると 1.41.4 となります。

焦らず丁寧に取り組めば,最後まで解き切ることのできる問題です。 波動の単元の重要知識の確認もできるため,復習にも良いです。