万有引力の法則と万有引力による位置エネルギー

この記事では,万有引力の法則の位置エネルギーについて解説します。位置エネルギーの定義に忠実に従って導出することが重要です。

万有引力の法則

万有引力の法則

位置 r\boldsymbol{r} にある質量 m1m_1 の質点に,原点にある質量 m2m_2 の質点が及ぼす重力は, FG=Gm1m2r2rr F_G=-G\dfrac{m_1m_2}{r^2}\dfrac{\boldsymbol{r}}{r} で与えられる。ただし GG は万有引力定数で G6.67×1011m3kg1s2G\simeq6.67\times10^{-11}\mathrm{m^3kg^{-1}s^{-2}} である。 万有引力

座標の取り方から,位置ベクトルと万有引力の方向は逆なので,負号がついていることに注意してください。

万有引力はクーロン力と同様の形をしているので,保存力になります。よって,定義に従って,位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)を求めることができます。

位置エネルギーについては以下の記事を参照してください。

位置エネルギーの定義と例(重力・弾性力・クーロン力

万有引力の位置エネルギー

位置エネルギーの定義

保存力 FC(r)\boldsymbol{F_C(r')}r0\boldsymbol{r_0} を基準とした位置エネルギーは U(r)=r0rFC(r)dr U(\boldsymbol{r})=-\boldsymbol{\int^r_{r_0}F_C(r')}\cdot d\boldsymbol{r'} で与えられる。

ここで FC(r)\boldsymbol{F_C(r')} はベクトル量であることに注意してください。この FC(r)\boldsymbol{F_C(r')} に上の万有引力を代入して,万有引力の位置エネルギーを求めていきます。

万有引力の位置エネルギーの導出

万有引力の表式と位置エネルギーを合わせて,万有引力の r0\boldsymbol{r_0} を基準とした位置エネルギー UG(r)U_G(\boldsymbol{r})UG(r)=r0rGm1m2r2rrdr U_G(\boldsymbol{r})=-\boldsymbol{\int^r_{r_0}}-G\dfrac{m_1m_2}{r^2}\dfrac{\boldsymbol{r}}{r}\cdot d\boldsymbol{r'} である。ここで rr\dfrac{\boldsymbol{r}}{r} は原点から質点の方向への単位ベクトルなので, rrdr=dr(drはスカラー量) \dfrac{\boldsymbol{r'}}{r'}\cdot d\boldsymbol{r'}=dr' (dr'はスカラー量) となるので, UG(r)=r0rGm1m2r2rrdr=r0rGm1m2r2dr=[Gm1m2r]r0r=Gm1m2r+Gm1m2r0 \begin{aligned} U_G(\boldsymbol{r'})&=-\boldsymbol{\int^r_{r_0}}-G\dfrac{m_1m_2}{r'^2}\dfrac{\boldsymbol{r'}}{r'}\cdot d\boldsymbol{r'}\\ &=\boldsymbol{\int^r_{r_0}}G\dfrac{m_1m_2}{r'^2}dr'\\ &=\left[-G\dfrac{m_1m_2}{r'}\right]^r_{r_0}\\ &=-G\dfrac{m_1m_2}{r}+G\dfrac{m_1m_2}{r_0} \end{aligned} を得る。

通常は基準点として,無限遠点を選びます。従って,上の表式で r0r_0\to\infty として

無限遠点を基準とした万有引力の位置エネルギー

UG(r)=Gm1m2r U_G(\boldsymbol{r})=-G\dfrac{m_1m_2}{r}

を得ることができます。

質量は電荷と違い,常に正の値を取るので,無限遠点を基準とした万有引力の位置エネルギーは常に負の値をとります。符号は間違いやすいので注意しましょう。

万有引力の位置エネルギーの例題

万有引力の位置エネルギーに関する例題を2題紹介します。

例題

地上からロケットを速さ v0v_0 で真上に打ち上げた。やがてロケットは地球の中心からの距離が,地球の半径の2倍の地点まで達し,一瞬静止した後,落下した。この時ロケットの初速度 v0v_0 を求めよ。ただし地球の質量を MM,万有引力定数を GG とする。また,ロケットの力学的エネルギーは保存するとする。

解答

ロケットが打ち上げられた直後,ロケットの持つ力学的エネルギーは, E=12mv02GMmR E=\dfrac{1}{2}mv_0^2-G\dfrac{Mm}{R} ロケットが静止した時,ロケットの力学的エネルギーは E=GMm2R E'=-G\dfrac{Mm}{2R} 力学的エネルギーが保存するので, 12mv02GMmR=GMm2R \dfrac{1}{2}mv_0^2-G\dfrac{Mm}{R}=-G\dfrac{Mm}{2R} これを解いて, v0=GMR v_0=\sqrt{\dfrac{GM}{R}} を得る。

次は位置エネルギーの「重ね合わせの原理」についての例題です。

例題

重力の位置エネルギーが「重ね合わせの原理」を満たすことを示せ。すなわち空間に3つの質点 A,B,CA,B,C が存在するとすると,AABB による位置エネルギーを UBU_BAACC による位置エネルギーを UCU_Cとした時,AA の重力による位置エネルギーは, U=UB+UC U=U_B+U_C で与えられることを示せ。

解答

AABB から受ける重力を FB\boldsymbol{F_B}AACC から受ける重力を FC\boldsymbol{F_C} とする。力の重ね合わせの原理より,AA の受ける全体の重力 FA\boldsymbol{F_A} は, FA=FB+FC \boldsymbol{F_A}=\boldsymbol{F_B}+\boldsymbol{F_C} となる。よって AA の重力の位置エネルギーは, UA=r0rA(FB+FC)dr=r0rAFBdrr0rAFCdr=UB+UC \begin{aligned} U_A &=-\boldsymbol{\int^{r_A}_{r_0}(F_B+F_C)}\cdot d\boldsymbol{r'} \\ &=-\boldsymbol{\int^{r_A}_{r_0}F_B}\cdot d\boldsymbol{r'}-\boldsymbol{\int^{r_A}_{r_0}F_C}\cdot d\boldsymbol{r'} \\ &=U_B+U_C \end{aligned} となるので示された。

「位置エネルギーは存在するか?」というのは難しい問いですが,少なくとも計算上,非常に便利な概念です。