仕事と運動エネルギーの関係

仕事と運動エネルギーの関係について説明します。別々に定義されるこれらの量は,運動方程式によって結ばれます。

仕事の定義

仕事と呼ばれる量は,物理では以下のように定義されます:

仕事の定義

物体に力が作用して,その方向に変位があったとき,力は物体に仕事をしたという。逆に物体は力によって仕事をされたという。式で表すと, ΔW:=FΔr \Delta W : = \boldsymbol{F} \cdot \Delta\boldsymbol{r}

FΔr\boldsymbol{F} \cdot \Delta\boldsymbol{r} は,力と変位ベクトルの内積です。つまり,仕事 ΔW\Delta W はスカラー量になります。

例をみてみましょう。

仕事・例

物体に,一定の力 F\boldsymbol{F} を図のような方向に加えます。この状態で,物体を水平方向に ll だけ動かします。図の右方向の単位ベクトルを ex\boldsymbol{e}_x で表すことにします。この間,力 F\boldsymbol{F} は以下の大きさの仕事をします: ΔW=Flex=Flcosθ\begin{aligned} \Delta W &= \boldsymbol{F} \cdot l \boldsymbol{e}_x\\ &= \|\boldsymbol{F}\| l \cos \theta \end{aligned}

ただ単に,力を加えていても,力を加えている対象が全く動かなければ仕事は発生しない ということに注意してください。

仕事には運動エネルギーと密接な関係があることを以下で説明していきます。

運動エネルギー

運動エネルギーと呼ばれる量は,物理では以下のように定義されます:

運動エネルギーの定義

慣性質量 mm,速度 v\boldsymbol{v} で運動している質点の運動エネルギー KKK:=12mv2 K := \dfrac{1}{2} m \|\boldsymbol{v}\|^2 で定義する。

なぜ 12\dfrac{1}{2} が付くのか,v\|\boldsymbol{v}\| の2乗が入るのかなど疑問は残りますが,これは定義ですので議論の余地はありません。こう定義すると仕事との関係がうまく説明できるから,という理由だけです。

仕事と運動エネルギーの関係式の求め方

では,仕事とエネルギーの関係について議論します。質点の運動方程式: mdvdt=F m \dfrac{d{\boldsymbol{v}}}{d{t}} = \boldsymbol{F} からはじめます。

運動方程式の両辺で,v\boldsymbol{v} と内積をとると, vmdvdt=m2ddt(vv)=ddt(12mv2)=Fv \boldsymbol{v} \cdot m\dfrac{d{\boldsymbol{v}}}{d{t}} = \dfrac{m}{2} \dfrac{d}{dt}\left(\boldsymbol{v}\cdot\boldsymbol{v}\right) = \dfrac{d}{dt}\left(\dfrac{1}{2}mv^2\right) = \boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{v} と書き換えられます。ここで, ddt(vv)=dvdtv+vdvdt=2vdvdt \dfrac{d}{dt}\left(\boldsymbol{v}\cdot\boldsymbol{v}\right) = \dfrac{d{\boldsymbol{v}}}{d{t}}\cdot \boldsymbol{v} + \boldsymbol{v}\cdot\dfrac{d{\boldsymbol{v}}}{d{t}} = 2 \boldsymbol{v}\cdot\dfrac{d{\boldsymbol{v}}}{d{t}} を利用しています。t0t_0 から t1t_1 の間で積分すれば, ΔK=K(t1)K(t0)=t0t1Fvdt=r(t0)r(t1)Fdr \Delta K = K(t_1) - K(t_0) = \int_{t_0}^{t_1}\boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{v}dt = \int_{\boldsymbol{r}(t_0)}^{\boldsymbol{r}(t_1)}\boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{r} この式より,「ある時間内で増加した分の運動エネルギーは,仕事に等しい」と言うことができます。これが,仕事とエネルギーの関係の式です。

この式からわかることは,仕事とエネルギーの変動は完全に対応するということです。仕事とエネルギーは表裏一体なのです。

特に,仕事が0,つまり r(t0)r(t1)Fdr=0\int_{\boldsymbol{r}(t_0)}^{\boldsymbol{r}(t_1)}\boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{r} = 0 の場合, ΔK=0 \Delta K = 0 つまり, K=const. K = \mathrm{const.} となります。これをエネルギー保存の法則と呼びます。

仕事とエネルギーの関係式の利用例

せっかくですので1問例題を考えてみましょう。

物体が自由落下している。時刻 t=t0t = t_0 において,物体は高さ HH の位置で,下向きに速度 v0v_0 で落下していた。時刻 t=t1t = t_1 において,物体は高さ hh の位置まで落下した。このときの物体の下向きの速度 vv を求めよ。 利用例の問題

仕事とエネルギーの関係式により, 12mv212mv02=t0t1(mg)vdt=[mgx]hH=mg(Hh)\begin{aligned} \dfrac{1}{2}mv^2 - \dfrac{1}{2}mv_0^2 &= \int_{t_0}^{t_1} (mg) \cdot vdt\\ &= \left[mgx\right]^H_h\\ &= mg(H-h) \end{aligned} これを vv について整理すれば, v=2g(Hh)+v02 v = \sqrt{2g(H-h) + v_0^2} と求めることができます。

仕事とエネルギーの関係式は,運動方程式という原理から簡潔に求めることができるのです。