ホイートストンブリッジ回路の公式の証明と応用

高校物理の電磁気分野のうち,回路問題の中で特別なものは,一度触れておく価値があるとともに,一度見たことがあるか否かでは大きく差がつきます。今回は、そのような回路のうちホイートストンブリッジについて紹介します。

ホイートストンブリッジ回路の定義・平衡条件

ホイートストンブリッジとは,下図のように回路内に架橋部分が存在するブリッジ回路のことを言います。

ホイートストン回路

ホイートストンブリッジでは,以下のような事実が成り立ちます。

ホイートストンブリッジの公式

ホイートストンブリッジの架橋部分(上図の場合は区間BD)に電流が流れないことと,抵抗値について下式

R1R2=R3R4(1) \dfrac{R_1}{R_2} = \dfrac{R_3}{R_4} \tag{1}

が成り立つこととは同値である。

(1)式はホイートストンブリッジの平衡条件とも呼ばれます。

証明

まず,架橋部分に電流が流れていないとき,(1)式が成り立つことを示す。

ホイートストン回路2

キルヒホッフの第一法則より,電流は上図のように流れると考えてよい。キルヒホッフの第二法則は任意の閉回路で成り立つから,回路ABC,回路BCDでキルヒホッフの第二法則を用いて

i1R1=i2R2(2) i_1 R_1 = i_2 R_2 \tag{2}

i1R3=i2R4(3) i_1 R_3 = i_2 R_4 \tag{3}

(2),(3)式より

i2i1=R1R2=R3R4 \dfrac{i_2}{i_1} = \dfrac{R_1}{R_2} = \dfrac{R_3}{R_4}

が成り立っていることがわかる。

逆について示す。下図のように区間BDに電流が流れているとする。

ホイートストン回路3

回路ABDについてキルヒホッフの第二法則より

i1R1+i3R5=i2R2(4) i_1 R_1 + i_3 R_5 = i_2 R_2 \tag{4}

回路BCDについてキルヒホッフの第二法則より

(i1i3)R3=i3R5+(i2+i3)R4 (i_1 - i_3) R_3 = i_3 R_5 + (i_2 +i_3) R_4

i1R3i3(R3+R4+R5)=i2R4(5) \therefore i_1 R_3 - i_3 (R_3 + R_4 + R_5) = i_2 R_4 \tag{5}

(4)式の両辺を両辺を R2R_2 で割って

i1R1R2+i3R3R2=i2(4’) i_1 \dfrac{R_1}{R_2} + i_3 \dfrac{R_3}{R_2} = i_2 \tag{4'}

(5)式の両辺を R4R_4 で割って

i1R3R4i3(R3R4+1+R5R4)=i2(5’) i_1 \dfrac{R_3}{R_4} - i_3 \left(\dfrac{R_3}{R_4} + 1 + \dfrac{R_5}{R_4} \right) = i_2 \tag{5'}

(4’)式から(5’)式を引く。このとき

R1R2=R3R4 \dfrac{R_1}{R_2} = \dfrac{R_3}{R_4}

が成り立っていることに注意すると,

i3(R3R2+R3R4+1+R5R4)=0 i_3 \left(\dfrac{R_3}{R_2} + \dfrac{R_3}{R_4} + 1 + \dfrac{R_5}{R_4} \right) = 0

抵抗値は全て正としてよいから,

i3=0 i_3 = 0

を得ることができる。

この証明に電圧 VV が出てきていないことに注意してください。これより,ホイートストンブリッジの公式は,用いている電圧の値とは関係なしに用いることができます。これがこの公式の強力な点です。

テブナンの定理によるホイートストンブリッジの考察

ここでは,テブナンの定理を用いてホイートストンブリッジの性質について考えてみます。

テブナンの定理

テブナンの定理について,軽く説明します。

テブナンの定理とは,複雑な回路のある箇所に流れる電流を求める際に,等価で簡単な回路に組み替えることができるという定理です。具体的には,以下のような手順を踏みます。

テブナンの定理による回路の置き換え方

(1)電流を求めたい箇所を分離し,分離先にそれぞれ端子を取り付ける。

(2)残された回路の等価電源を次のようにして求める。つまり,残った回路にキルヒホッフの法則を用いて,新たに取り付けた端子間の電圧を求める。

(3)残された回路の等価抵抗を次のようにして求める。つまり,残された回路の電圧源 (電池など,それ自体が電圧を生じるもの) を取り除き,残った素子による合成抵抗を求める。

(4)このようにして置き換えた等価電源,等価抵抗及び端子に,(1)で分離した回路部分を接続して等価な回路を作り,その回路にキルヒホッフの法則を用いることで電流を求める。

テブナンの定理による解析

テブナンの定理を用いるために,図1の回路を下図のように区間BCとそれ以外とに分割し,それぞれ領域1,2と呼びます。

ホイートストン回路a

まず,領域2の等価電源を求めます。直列回路内の電圧降下は抵抗値に比例することから考えて,点Xでの電位を VXV_X とすると,点B,Cでの電位はそれぞれ

VB=R3R1+R3V,VC=R4R2+R4V V_B = \dfrac{R_3}{R_1 + R_3} V , V_C = \dfrac{R_4}{R_2 + R_{4}} V

となるから,区間BCの電位差 VBCV_{BC} は,

VBC=(R3R1+R3R4R2+R4)V V_{BC} = \left(\dfrac{R_3}{R_1 + R_3} - \dfrac{R_4}{R_2 + R_{4}} \right) V

となります。

次いで,領域2の等価抵抗を求めます。テブナンの定理を用いる際,抵抗の図は下図のように書き換えられます。

ホイートストン回路b

ホイートストン回路b-2

直列および並行接続された抵抗の合成抵抗の求め方を利用して,等価抵抗 RR

R=R1R2R1+R2+R3R4R3+R4 R =\dfrac{R_1 R_2}{R_1 + R_2} + \dfrac{R_3 R_4}{R_3 + R_4}

となります。

したがって,テブナンの定理を用いると,図1は下図のような等価な回路に書き換えることができます。

ホイートストン回路c

したがって,区間BCに流れる電流を電流を II とおくと,,

I=VBCR+R5=1R+R5(R3R1+R3R4R2+R4)V I = \dfrac{V_{BC}}{R + R_5} = \dfrac{1}{R + R_5} \left(\dfrac{R_3}{R_1 + R_3} - \dfrac{R_4}{R_2 + R_{4}} \right) V

となるので,I=0I =0 となる条件は

R3R1+R3R4R2+R4=0 \dfrac{R_3}{R_1 + R_3} - \dfrac{R_4}{R_2 + R_{4}} =0

この式を変形すると(1)式を得ることができます。

ホイートストンブリッジの応用

ここでは,ホイートストンブリッジについて実用的な観点から述べます。高校物理ではこれから説明するような状況での問題も出ることがあるので,一度知っておくと良いと思います。

未知の抵抗値の測定

先ほど示した事実を用いると,ホイートストンブリッジに使用する抵抗は,3つ抵抗値が既知のものを使用すれば,抵抗値が未知の抵抗の抵抗値を知ることができます。

ホイートストン回路4

このように区間BDに検流計,区間BCに可変抵抗器(抵抗値を変えることのできる抵抗です)を用いることで,検流計が0となったときの抵抗値 R3R_3 を使って,未知の抵抗値 R4R_4 を求めることができます。

検流計の内部抵抗によらず未知の抵抗値を求めることができていることがポイントです。

メートルブリッジへの応用

ホイートストンブリッジの仕組みをうまく応用することで,未知の抵抗値の測定に必要な既知抵抗の数を減らすことができます。それがメートルブリッジです。

ホイートストン回路5

上図のように,区間ACに材質が一様で太さが一定であり,長さが LL の抵抗線を接続します。 オームの法則と抵抗の性質 で説明したように,抵抗率 ρ\rho,長さ ll,底面積 SS の抵抗線の抵抗 RR は,

R=ρlS R = \rho \dfrac{l}{S}

で与えられます。

いま抵抗線の材質は一様で,太さも一定なので,抵抗線の抵抗はその長さに比例することになります。

いま,検流計が0を示したとき,区間ABの長さが長さが xx であったとすると,先ほど考えたことより

R1:R3=x:Lx R_1 : R_3 = x : L -x

R1R3=xLx \therefore \dfrac{R_1}{R_3} = \dfrac{x}{L-x}

これより,未知抵抗の抵抗値 R4R_4 は,

R4=R2R1R3=LxxR3 R_4 = \dfrac{R_2}{R_1} R_3 = \dfrac{L-x}{x} R_3

と求めることができます。

ホイートストンブリッジの公式は,とても綺麗な形をしていますね。このように,系の対称性から得られる公式にもその対称性が現れることがあるのが,個人的に物理など自然科学の面白いところだと思います。