【解答・解説】東大物理2023 第1問 -力学-

2023年度の東大物理第1問を解説します。力学の単元です。

なお,本記事中の図は全て,2023年度東京大学入試問題物理第1問を参考に,ライターが作成したものです。

問題

以下の問題は,2023年度東京大学入試問題物理第1問から引用しています(一部見やすさのため修正しています)。

問題

以下のような仮想的な不安定原子核 X を考える。X の質量は 4m4m,電気量は正の値 2q2q である。Xの半減期は TT で,図1-1に示すように自発的に二つの原子核 A と B に分裂する。

tp23-1-fig1

Aの質量は mm,B の質量は 3m3m である。分裂の際の質量欠損は Δm\Delta m であるが,これは mm と比べて十分に小さいので,X の質量は A と B の質量の和で近似されている。分裂後の電気量は A も B も共に qq である。これらの原子核の運動について考える。

ただし,原子核は真空中を運動しており,重力は無視できる。原子核の速さは真空中の光速 cc に比べて十分遅い。原子核は質点として扱い,量子的な波動性は無視できる。個々の原子核は以下の問題文で与えられる電場や磁場による力だけを受け,他の原子核が作る電場や電流に伴う力は無視できる。加速度運動に伴う電磁波放射も無視できる。

I

多数の原子核 X を作り,それらが分裂する前に,特定の運動エネルギーをもつものだけを集めることを考える。図1-2のように,座標原点にある標的素材に中性子線ビームを照射し,核反応を起こすことで,多数の X が作られる。

tp23-1-fig2

これらの X は y>0y > 0 の領域に様々な速さで,様々な方向に飛び出す。y>0y > 0 の領域に紙面に垂直な壁を設け,xx 軸上に原点から距離 aa だけ離れた位置に小窓を開ける。壁に衝突することなく,壁面に垂直に小窓を通過する原子核だけを集める。以下の設問に答えよ。ただし,標的素材や小窓の大きさは長さ aa と比べて十分小さい。

(1)小窓から集められる個々の X の運動エネルギーを m,q,B,am, q, B, a を用いて表せ。

(2)X が分裂する前に,なるべく効率よく X を集めたい。原点で生成され,小窓を通る軌道に入った X のうち,分裂前に小窓を通過する割合が ff 以上になるために必要な磁束密度 BB の下限値を f,m,q,a,Tf, m, q, a, T の中から必要なものを用いて表せ。ここで収集された X は十分多数で,0<f<10 < f < 1 であるとする。

(3)集めた X を電場で減速させ,静止させた。図1-1のように,この後,X は分裂する。分裂の際に,A と B 以外の粒子や放射線は放出されず,質量欠損に対応するエネルギーが A と B の運動エネルギーとなる。このときの A と B のそれぞれの速さ vAv_\text{A} および vBv_\text{B}m,Δm,cm, \Delta m , c を用いて表せ。

II

次に,図1-3に示す実験を考える。

tp23-1-fig3

原子核 X を座標原点に,初速 0 で次々と注入する。ここでは x0x \geq 0 の領域だけに,xx 軸正の向きの一様な電場 EE がかけられており,X は xx 軸に沿って加速していく。x=Lx = L には検出器があり,原子核の運動エネルギーと電気量,質量を測ることができる。電場 EE は,E=2mvA2qLE = \dfrac{2 m v_\text{A}^2}{q L} となるように調整されている。ここで vAv_\text{A} は,設問 I(3) における A の速さ (図1-1参照) であり,定数である。

X の一部は検出器に入る前に様々な地点で分裂し,A と B を放つ。原子核の運動する面を xyxy 平面にとり,以下では紙面垂直方向の速度は 0 とする。分裂時の X と同じ速さで xx 軸に沿って運動する観測者の系を X 静止系と呼ぶ。X 静止系では,分裂直後に A は速さ vAv_\text{A} で全ての方向に等しい確率で飛び出す。X 静止系での分裂直後の A の速度ベクトルが,xx 軸となす角度を θ0\theta_0 とする。このとき,分裂直後の X 静止系での A の xx 方向の速度は vAcosθ0v_\text{A} \cos{\theta_0} と表せる。以下の設問に答えよ。

(1)図1-3にあるように,X の分裂で生じた A の中には,一度検出器から遠ざかる方向に飛んだ後,転回して検出器に入るものがある。このような軌道を転回軌道と呼ぶ。A が転回軌道をたどった上で,検出器に入射する条件を求めよう。以下の文の \fbox{ア} から \fbox{カ} に入る式を答えよ。以下の文中で指定された文字に加え,L,vAL, v_\text{A} の中から必要なものを用いよ。

分裂時の X の検出器に対する速さを αvA\alpha v_\text{A} を表すと,分裂地点 x0x_0 の関数として α=\alpha = \fbox{ア} と書ける。また,注入されてから x0x_0 まで移動する時間は,x0x_0 の代わりに α\alpha を用いて,\fbox{イ} と表せる。以下の設問に答えよ。

転回軌道に入るためには,A の初速度の xx 成分は負である必要があるので,θ0\theta_0 に対して,α\alpha で表せる条件,cosθ0<\cos{\theta_0} < \fbox{ウ} が得られる。この条件から,そもそも x0>x_0 > \fbox{エ} では転回軌道が実現しないことがわかる。A が後方に飛んだ場合,x<0x < 0 の領域に入ると,検出器に到達することはない。これを避けるための条件は,α\alpha を用いて cosθ0>\cos{\theta_0} > \fbox{オ} と表せる。x0>x_0 > \fbox{カ} のときには,A は θ0\theta_0 によらず x<0x < 0 の領域に入ることはない。

(2)検出器に入った A のうち,検出器の xx 軸上の点で検出されたものだけに着目する。測定される運動エネルギーの取りうる範囲を m,vAm, v_{\text{A}} を用いて表せ。

(3)X の注入を繰り返し,十分多数の A が検出された。検出された A のうち,運動エネルギーが mvA2m v_{\text{A}}^2 よりも小さい原子核の数の割合は,X の半減期 TTLvA\dfrac{L}{v_{\text{A}}} と比べてはるかに短い場合と,逆にはるかに長い場合で,どちらが多くなると期待されるか,理由とともに答えよ。

一見原子核の問題に見える問題ですが,その実ローレンツ力の概念などを用いる力学の問題です。

解答例

大問 I

(1)

tp23-1-1-1

原子核は電荷を持った質点であり,磁場からはローレンツ力 (ローレンツ力の意味と式|磁場中の荷電粒子の運動) を受けます。このローレンツ力は常に速度と垂直にはたらくので,原子核はローレンツ力を中心力とする等速円運動 (円運動とは|円運動における加速度・向心力・遠心力を行います。

等速円運動の軌道を考えると,壁面に垂直に小窓を通過する原子核は,初速度が yy 軸正の方向を向いている原子核のみとなります。したがって,この円運動の半径 rr

r=a2 r = \dfrac{a}{2}

となります。

原子核の速さを vv とすると,運動方程式より

4mv2r=2qvB 4 m \dfrac{v^2}{r} = 2 q v B

v=12qBrm=14qBam \begin{aligned} \therefore v &= \dfrac{1}{2} \dfrac{q B r}{m} \\ &= \dfrac{1}{4} \dfrac{q B a}{m} \end{aligned}

したがって,求める運動エネルギー KK

K=124mv2=18q2B2a2m \begin{aligned}K&= \dfrac{1}{2} 4m v^2 \\ &= \dfrac{1}{8} \dfrac{q^2 B^2 a^2}{m} \end{aligned}

となります。

(2)

(1)の軌道で等速円運動する原子核が小窓に到達する時間 ttは,円運動の周期 TcirT_{\text{cir}} の1/2であり

t=12Tcir t = \dfrac{1}{2} T_{\text{cir}}

ここで,(1)の円運動の角速度を ω\omega とすると,v=12aωv = \dfrac{1}{2} a \omega より

Tcir=2πω=πav=4πmqB \begin{aligned} T_{\text{cir}} &= \dfrac{2 \pi}{\omega} \\ &= \pi \dfrac{a}{v} \\ &= 4 \pi \dfrac{m}{q B} \end{aligned}

したがって,

t=2πmqB t = 2 \pi \dfrac{m}{q B}

となります。ここで,X の半減期が TT であることより,時刻 tt に残っている X の割合は,

2tT=22πmqBT 2^{- \dfrac{t}{T}} = 2^{- 2 \pi \dfrac{m}{q B T}}

これが ff 以上であることより

22πmqBTf 2^{- 2 \pi \dfrac{m}{q B T}} \geq f

2πmqBTlog2f=log21f \therefore -2 \pi \dfrac{m}{q B T} \geq \log_2 f = - \log_2 {\dfrac{1}{f}}

0<f<10 < f < 1 より,log21f>0\log_2 {\dfrac{1}{f}} > 0 であることに注意してください。したがって,求める BB の下限値 BcB_c

Bc=2πlog21fmqT B_c = \dfrac{2 \pi}{\log_2 {\dfrac{1}{f}}} \dfrac{m}{q T}

(3)

図1-1から,運動量保存則 (運動量保存則とエネルギー保存則の導出)より

mvA=3mvB m v_{\text{A}} = 3m v_{\text{B}}

vA=3vB \therefore v_{\text{A}} = 3 v_{\text{B}}

また,問題文中に,「分裂の際に,…質量欠損に対応するエネルギーが A と B の運動エネルギーとなる」と書いてあることより

(Δm)c2=12mvA2+32mvB2 (\Delta m) c^2 = \dfrac{1}{2} m v_{\text{A}}^2 + \dfrac{3}{2} m v_{\text{B}}^2

これらより vA,vBv_{\text{A}}, v_{\text{B}} について解いて

vA=32Δmmc,vB=16Δmmc v_{\text{A}} = \sqrt{\dfrac{3}{2} \dfrac{\Delta m}{m}} c, \, v_{\text{B}} = \sqrt{\dfrac{1}{6} \dfrac{\Delta m}{m}} c

と求められます。

大問 II

(1)

静止系での分裂前までの X の加速度を aa とすると,運動方程式より

4ma=2qE=4mvA2L 4m a = 2q E = 4 \dfrac{m v_\text{A}^2}{L}

a=vA2L \therefore a = \dfrac{v_\text{A}^2}{L}

これより,時刻 tt での検出器に対する X の速さ vv および位置 xx は (等加速度運動・等加速度直線運動の公式)

v=at,x=12at2 v = a t, \, x = \dfrac{1}{2} a t^2

x=x0x = x_0 となるときの時刻を t=t0t = t_0 とすると

x0=12at02 x_0 = \dfrac{1}{2} a t_0^2

t0=2x0a \therefore t_0 = \sqrt{2 \dfrac{x_0}{a}}

このとき v=αvAv = \alpha v_\text{A} となります。したがって

αvA=at0=2ax0=2x0LvA \alpha v_\text{A} = a t_0 = \sqrt{2 a x_0} = \sqrt{2 \dfrac{x_0}{L}} v_\text{A}

α=2x0L(ア) \therefore \alpha = \sqrt{2 \dfrac{x_0}{L}} \tag{ア}

これより x0x_0 は,α\alpha を用いて

x0=12α2L x_0 = \dfrac{1}{2} \alpha^2 L

と表されるので,t0t_0

t0=α2La=αLvA(イ) \begin{aligned} t_0 &= \sqrt{\dfrac{\alpha^2 L}{a}} \\ &= \alpha \dfrac{L}{v_\text{A}} \tag{イ} \end{aligned}

検出器に対する A の初速度の x,yx, y 成分は,それぞれ

x:vAcosθ0+αvA=(cosθ0+α)vA x : v_\text{A} \cos{\theta_0} + \alpha v_\text{A} = (\cos{\theta_0} + \alpha) v_\text{A}

y:vAsinθ0 y : v_\text{A} \sin{\theta_0}

と表されます。これが負であることより,θ0\theta_0 に関する条件として

cosθ0<α(ウ) \cos{\theta_0} < - \alpha \tag{ウ}

と求められます。

これより,もし α<1- \alpha < -1,すなわち 1<α1 < \alpha であれば,転回軌道は実現しないことがわかります。(ア)より,x0x_0 に関する条件として

x0>12L(エ) x_0 > \dfrac{1}{2} L \tag{エ}

が課されることがわかります。

さて,条件 (ウ) が満たされ,A が後方に飛ぶときを考えます。このとき検出器に対する A の運動を考えます。xx 軸方向の運動は,運動方程式より

maA=qE=2mvA2L m a_{\text{A}} = q E = \dfrac{2 m v_\text{A}^2}{L}

aA=2vA2L \therefore a_{\text{A}} = \dfrac{2 v_\text{A}^2}{L}

すなわち,この aAa_{\text{A}} を加速度に持つ,初速度 (cosθ0+α)vA(\cos{\theta_0} + \alpha) v_{\text{A}} の等加速度運動を行います。検出器に対する A の速度 VAV_\text{A} および 位置 XAX_\text{A} は,分裂時を t=0t' = 0 とすると,それぞれ

VA=2vA2Lt+(cosθ0+α)vA V_\text{A} = \dfrac{2 v_\text{A}^2}{L} t' + (\cos{\theta_0} + \alpha) v_{\text{A}}

XA=vA2Lt2+(cosθ0+α)vAt+x0 X_\text{A} = \dfrac{ v_\text{A}^2}{L} t'^2 + (\cos{\theta_0} + \alpha) v_{\text{A}} t' + x_0

A が転回運動で x<0x < 0 の領域に入らないための条件は,XAX_\text{A}tt' の2次方程式とみたときに実解を持たない条件と等しく,判別式に関する条件

D=(cosθ0+α)2vA24vA2Lx0<0 D = (\cos{\theta_0} + \alpha)^2 v_\text{A}^2 - 4 \dfrac{ v_\text{A}^2}{L} x_0 < 0

転回運動が起こるとき (cosθ0+α)<0(\cos{\theta_0} + \alpha) < 0 であることに注意して

2x0L=2α<cosθ0+α<0 -2 \sqrt{\dfrac{x_0}{L}} = - \sqrt{2} \alpha < \cos{\theta_0} + \alpha < 0

cosθ0>(1+2)α(オ) \therefore \cos{\theta_0} > - (1 + \sqrt{2}) \alpha \tag{オ}

式 (オ) が θ0\theta_0 によらず成り立つような x0x_0 の条件は,1>(1+2)α-1 > - (1 + \sqrt{2}) \alpha,すなわち

α=2x0L>11+2 \alpha = \sqrt{2 \dfrac{x_0}{L}} > \dfrac{1}{1 + \sqrt{2}}

x0>12(1+2)2L(カ) \therefore x_0 > \dfrac{1}{2 (1 + \sqrt{2})^2 } L \tag{カ}

と求められます。

(2)

検出器に対する A の yy 軸方向の運動は,初速度 vAsinθ0v_{\text{A}} \sin{\theta_0} の等速運動となります。検出器の xx 軸上の点で観測されるのは,sinθ0=0\sin{\theta_0} = 0,すなわち θ0=0,π\theta_0 = 0, \pi のときです。

  • θ0=0\theta_0 = 0 のとき

このとき分裂時の A の xx 軸方向の初速度は正なので,A は転回運動を起こさず,加速度 aAa_{\text{A}}xx 軸方向に等加速度運動を行うことがわかります。

XA=LX_{\text{A}} = L となるような tt' を求めます。

vA2Lt2+(1+α)vAt+x0=L \dfrac{v_\text{A}^2}{L} t'^2 + (1 + \alpha) v_\text{A} t' + x_0 = L

vA2t2+(1+α)vALt+L(x0L)=0 \therefore v_\text{A}^2 t'^2 + (1 + \alpha) v_\text{A} L t' + L (x_0 - L) = 0

t=(1+α)vAL+(1+α)2vA2L24vA2L(x0L)2vA2(t>0) \begin{aligned} \therefore t' &= \dfrac{- (1 + \alpha) v_\text{A} L + \sqrt{(1 + \alpha)^2 v_\text{A}^2 L^2 - 4 v_\text{A}^2 L (x_0 - L)}}{2 v_\text{A}^2} \, (\because t' > 0) \end{aligned}

このときの A の速度 VAV_{\text{A}}

VA=2vA2Lt+V0=(1+α)vAL±(1+α)2vA2L24vA2L(x0L)L+(1+α)vA=(1+α)24(x0L1)vA=(1+α)24(12α21)vA=6(α1)2vA \begin{aligned} V_{\text{A}} &= 2 \dfrac{v_{\text{A}}^2}{L} t' + V_0 \\ &= \dfrac{- (1 + \alpha) v_\text{A} L \pm \sqrt{(1 + \alpha)^2 v_\text{A}^2 L^2 - 4 v_\text{A}^2 L (x_0 - L)}}{L} + (1 + \alpha) v_{\text{A}} \\ &= \sqrt{(1 + \alpha)^2 - 4 \left( \dfrac{x_0}{L} - 1 \right)} v_\text{A} \\ &= \sqrt{(1 + \alpha)^2 - 4 \left( \dfrac{1}{2} \alpha^2 - 1 \right)} v_\text{A}\\ &= \sqrt{6 - (\alpha - 1)^2} v_\text{A} \end{aligned}

いま,転回軌道が起こらないことより,0<x0<L0< x_0 < L であるから,α\alpha の範囲は

0<α<2 0 < \alpha < \sqrt{2}

この範囲で α\alpha を動かすと,VAV_{\text{A}} の範囲は

5vA<VA<6vA \sqrt{5} v_\text{A} < V_{\text{A}} < \sqrt{6} v_\text{A}

したがって,A の運動エネルギー KAK_{\text{A}} の取りうる範囲は

52mvA2<KA<3mvA2 \dfrac{5}{2} m v_\text{A}^2 < K_{\text{A}} < 3 m v_\text{A}^2

  • θ0=π\theta_0 = \pi のとき

このとき,分裂時の位置 x0x_0 によって A が転回運動するかが決まりますが,転回軌道が生じるか否かに関わらず,A が検出器に到達できるような x0x_0 の範囲は

12(1+2)2L<x0<L \dfrac{1}{2 (1 + \sqrt{2})^2 } L < x_0 < L

11+2α=21<α<2 \therefore \dfrac{1}{1 + \sqrt{2}} \alpha = \sqrt{2} - 1 < \alpha < \sqrt{2}

このときの速さ VAV_\text{A}

VA=(1+α)24(12α21)vA=6(α+1)2vA \begin{aligned} V_{\text{A}} &= \sqrt{(-1 + \alpha)^2 - 4 \left( \dfrac{1}{2} \alpha^2 - 1 \right)} v_\text{A} \\ &= \sqrt{6 - (\alpha + 1)^2 } v_\text{A} \end{aligned}

上記の範囲で α\alpha を動かしたとき,VAV_\text{A} の範囲は

322vA<VA<2vA \sqrt{3 - 2 \sqrt{2}} v_\text{A} < V_\text{A} < 2 v_\text{A}

したがって,KAK_\text{A} の範囲は

3222mvA2<KA<2mvA2 \dfrac{3 - 2 \sqrt{2}}{2} m v_\text{A}^2 < K_\text{A} < 2 m v_\text{A}^2

以上を合わせて,求める KAK_\text{A} の範囲は

3222mvA2<KA<2mvA2,52mvA2<KA<3mvA2 \dfrac{3 - 2 \sqrt{2}}{2} m v_\text{A}^2 < K_\text{A} < 2 m v_\text{A}^2 , \, \dfrac{5}{2} m v_\text{A}^2 < K_{\text{A}} < 3 m v_\text{A}^2

となります。

(3)(2)の結果を用いて考えてみます。xx 軸上のみで観測された A のうち,運動エネルギーが mvA2m v_\text{A}^2 より小さくなるのは,3222<1\dfrac{3 - 2 \sqrt{2}}{2} < 1 および (2) の議論より,θ0=π\theta_0 = \pi および 51<α<2\sqrt{5} -1 < \alpha < \sqrt{2} のときとなります。

x0=12α2Lx_0 = \dfrac{1}{2} \alpha^2 L より,これは x0x_0LL に近い領域で,A の運動エネルギーが mvA2m v_\text{A}^2 より小さくなることを意味しています。

検出器全体で考えても,分裂の位置について同様に考えられるので,分裂の位置 x0x_0 が検出器の位置 LL に近いほど,分裂後に検出器に到達する A の運動エネルギーは (mvA2m v_\text{A}^2 より) 小さくなると考えられます。

LvA\dfrac{L}{v_\text{A}} はおおよそ原子核 X が分裂せずに検出器の位置 LL に到達する時間だと考えられます。したがって,半減期 TTLvA\dfrac{L}{v_\text{A}} と比べて長いほど,分裂の位置は LL に近づくと考えられます。

以上より,X の注入を繰り返し,A を検出したとき,運動エネルギーが mvA2m v_\text{A}^2 よりも短い原子核の数の割合は,X の半減期 TTL/vAL / v_\text{A} と比べてはるかに長い場合の方が,はるかに短い場合より多くなると期待されます。

蓋を開けてみれば力学の問題です。計算がやや煩雑になる箇所もありますが,方針は非常にシンプルです。