【解答・解説】東大物理2024 第2問 -電磁気-

2024年度の東大物理第2問を解説します。電磁気の単元です。

なお,本記事中の図は全て,2024年度東京大学入試問題物理第2問を参考に,ライターが作成したものです。

問題

固体中に電荷が固定された物体をエレクトレットと呼ぶ。エレクトレットは振動のエネルギーを電気エネルギーとして取り出す振動発電などの分野で利用されている。以下では,電荷を帯びた金属板が誘電体中に固定された物体をエレクトレットのモデルとする。

図2-1のような装置を考える。

tp24-2-fig1

水平な床の上に幅と奥行きが LL で暑さの無視できる正方形の金属板 (下電極) を固定した。その上に幅と奥行きが LL で厚さが 2d2d の直方体の形状で,中央に金属板が埋めこまれた誘電体を固定した。埋めこまれた金属板は幅と奥行きが LL で厚さが無視でき,一定の電荷 Q-Q を帯びている。誘電体の誘電率は ε\varepsilon である。上端を固定したばね定数 kk の絶縁体のばねを用いて,幅と奥行きが LL で厚さの無視できる質量 mm の金属板 (上電極) を誘電体の直上に吊り下げた。すべての金属板と誘電体は上方から見て重なっている。上電極は誘電体と平行を保ちながら上下方向に動かすことができる。上電極と下電極は抵抗とスイッチを介して導線でつながれている。この装置は真空中に置かれている。真空の誘電率は ε0\varepsilon_0 である。重力加速度を gg とする。

上電極の位置を表すために,誘電体の上面からわずかに上の位置を z=0z = 0 にとり,鉛直上向きに zz 軸をとる。上電極の位置が z=0z = 0 のとき,上電極と誘電体上面の距離は無視できるほど小さい。電荷は,導線を介して上電極と下電極の間でのみ移動する。

初期条件で,図2-1のようにスイッチは開いており,下電極は電荷 +Q+Q を帯びていた。上電極は電荷を帯びておらず,つりあいの位置 z=h0z = h_0 で静止していた。

これらの金属板で作られたコンデンサーを含む回路について,以下の設問に答えよ。ただし,金属板の面積は十分に小さく,端の効果は無視できるものとする。上電極につながれた導線は上電極の運動に影響しない。電荷の移動や金属板の振動に伴う電磁波の発生は無視できる。

I はじめ,図2-1に示したように下電極は +Q+Q の電荷を帯びており,スイッチは開いている。上電極はつりあいの位置 z=h0z = h_0 にあり,電荷を帯びていない。

(1)誘電体に埋め込まれた金属板の電位を求めよ。下電極を電位の基準 (電位 0) とする。

次に,図2-2 (ア) のように,上電極を z=0z = 0 の位置に固定し,スイッチを閉じた。

十分長い時間が経過すると,上電極の電荷は一定になった。

続いて図2-2 (イ) のように,スイッチを開いた後,上電極に外力を加え,ある位置までゆっくり移動させた。その位置で上電極を自由に動くようにしたところ,図2-2 (ウ) のように静止したままであった。

tp24-2-fig2-a

tp24-2-fig2-i

tp24-2-fig2-u

(3)上電極の zz 座標を求めよ。

(4)上電極の電位を求めよ。下電極を電位の基準 (電位 0) とする。

II 次に,図2-3 (ア)→(イ)→(ウ)→…→(キ)→(ア) で示される順に上電極を動かしながらスイッチを開閉したときの電荷の移動や抵抗の発熱を調べよう。

tp24-2-fig3-a

tp24-2-fig3-i-ki

tp24-fig3-u-ka

tp24-2-fig3-e-o

図2-3 (ア) のように上電極を z=0z = 0 に移動し,スイッチを閉じた。十分に長い時間が経過し,上電極の電荷は一定になった。次に,図2-3 (イ) のようにスイッチを開き,上電極を自由に動くようにしたところ,上方向に加速度運動をはじめた。上電極は図2-3 (ウ) のように z=h1z = h_1 まで上昇し速度が 0 になった。その位置で上電極がそれ以上動かないように固定した。

(1)h1h_1 を求めよ。

図2-3 (エ) のようにスイッチを閉じたところ抵抗に電流が流れ発熱した。十分長い時間ののち発熱はやみ,上電極の電荷量が一定の値 Q10\frac{Q}{10} となった。

(2)スイッチを閉じている間の抵抗の発熱量の合計を,h0,kh_0, k を用いず k1k_1 を含む式で答えよ。

図2-3 (オ) のように上電極におもりをのせてスイッチを開き,上電極が自由に動くようにしたところ,上電極は下降を始め,誘電体に衝突することなく速度が 0 になった。図2-3 (カ) のように,最低点は z=0z = 0 であった。その位置で上電極がそれ以上動かないように固定した。

(3)おもりの質量を答えよ。

図2-3 (キ) のようにおもりを取り除いてスイッチを閉じたところ抵抗に電流が流れ発熱した。十分に長い時間の後に発熱はやみ,図2-3 (ア) に示されるはじめの状態に戻った。

(4)図2-3で示される1サイクルについて,抵抗の発熱量の合計を,h0,kh_0, k を用いず h1h_1 を含む式で答えよ。

電荷の挙動と上電極の運動を丁寧に追うことが求められます。計算量も多くなっています。

解答例

大問 I

(1)下電極が電位の基準となっていることに注意します。

tp24-2-1-1

金属板と下電極からなるコンデンサーを考えます。このコンデンサーの電気容量 CC は (コンデンサーの理論)

C=εL2d C = \dfrac{\varepsilon L^2}{d}

と与えられるので,金属板と下電極との電位差 VV

V=QC=QdεL2 V = \dfrac{Q}{C} = \dfrac{Q d}{\varepsilon L^2}

金属板・下電極が蓄えている電荷の正負より,金属板の方が下電極より電位が低い (電位の考え方については 等電位線(等電位面)の重要性質と例題|電気力線との関係 などを参照) ので,下電極を電位の基準としたときの金属板の電位 VmV_m

Vm=V=QdεL2 V_m = -V = - \dfrac{Q d}{\varepsilon L^2}

と求められます。

(2)スイッチを閉じて定常状態になったのち,下図のように電荷が蓄えられているとします。

tp24-2-1-2

上電極・下電極の電荷量保存則 (電荷と電気量保存の法則) より

Q1+Q2=Q(1-1) Q_1 + Q_2 = Q \tag{1-1}

回路内でキルヒホッフ第2法則 (キルヒホッフの法則の解説と例題) より

Q1C1=Q2C2(1-2) \dfrac{Q_1}{C_1} = \dfrac{Q_2}{C_2} \tag{1-2}

ここで,上電極と金属板,金属板と下電極をそれぞれ誘電体が挿入されたコンデンサー (詳しくは 誘電率 を参照) とみなし,それぞれ電気容量を C1,C2C_1, C_2 としています。いま

C1=C2=εL2d C_1 = C_2 = \dfrac{\varepsilon L^2}{d}

であるので,(2-2)より

Q1=Q2 Q_1 = Q_2

したがって,(2-1)より

Q1=Q2=Q2 Q_1 = Q_2 = \dfrac{Q}{2}

(3)上電極がつりあいの位置にあるとき,ばねののびが l0l_0 であるとします。力のつりあいより

kl0=mg(1-3) k l_0 = mg \tag{1-3}

スイッチを開いてから上電極を移動させているので,(電荷量保存則より) 上電極および下電極に蓄えられた電荷量は不変です。

いま,上電極の zz 座標が z=z1z = z_1 であったとします。簡単のため,まず z1<h0z_1 < h_0 とします。

tp24-2-1-3

上電極に加わる力はばねの慣性力,重力,コンデンサーの極板間引力の3つです。まず,ばねの慣性力から考えます。図(イ)の状態から図(ウ)の状態に移る際,上図のように,つりあいの位置と比べてばねは h0z1h_0 - z_1 だけさらにのびることになります。したがって,zz 軸正の向きを力の正の方向とすると,ばねの慣性力は k(l0+h0z1)k (l_0 + h_0 - z_1) となります。これは z1<h0z_1 <h_0 としても同様の表現となります。

((注)さらに付け加えると,z1h0<l0z_1 - h_0 < l_0 であっても,縮んでいる状態をマイナス分だけのびていると考えれば,同様の表現で表すことが可能です。)

次に,上電極と金属板の間にはたらくクーロン力 fQf_Q を考えます。上電極と金属板は電荷 Q2\dfrac{Q}{2} を蓄えるコンデンサーとみなすことができます。上電極にはたらく電場 EE

E=Q2ε0L2=Q2ε0L2 E = \dfrac{\dfrac{Q}{2}}{\varepsilon_0 L^2} = \dfrac{Q}{2 \varepsilon_0 L^2}

と書くことができるので,コンデンサーの極板間引力公式 (コンデンサーの理論) より

fQ=12Q2Q2ε0L2=18Q2ε0L2 f_Q = \dfrac{1}{2} \dfrac{Q}{2} \dfrac{Q}{2 \varepsilon_0 L^2} = \dfrac{1}{8} \dfrac{Q^2}{ \varepsilon_0 L^2}

と求められます。したがって,上電極に対する力のつりあいより

k(l0+h0z1)=mg+18Q2ε0L2(1-4) k (l_0 + h_0 - z_1) = mg + \dfrac{1}{8} \dfrac{Q^2}{ \varepsilon_0 L^2} \tag{1-4}

(1-3)式より

k(h0z1)=18Q2ε0L2 k (h_0 - z_1) = \dfrac{1}{8} \dfrac{Q^2}{ \varepsilon_0 L^2}

z1=h018Q2kε0L2 \therefore z_1 = h_0 - \dfrac{1}{8} \dfrac{Q^2}{ k \varepsilon_0 L^2}

と求められます。

(注)この式変形より h0z1>0h_0 - z_1 > 0 であることもわかります。

(4)誘電体中と真空中で電場の大きさが変わることに注意します。

tp24-2-1-4

まず,z=z1z = z_1z=0z = 0 との電位差 v1v_1 を求めます。上電極と誘電体表面とを1つのコンデンサーとみなしたときの電気容量を C3C_3 とすると

v1=Q2C3=Qz12ε0L2 v_1 = \dfrac{\dfrac{Q}{2}}{C_3} = \dfrac{Q z_1}{2 \varepsilon_0 L^2}

同様に,z=0z = 0z=dz = -d との電位差 v2v_2 を求めます。誘電体表面と金属板とを1つのコンデンサーとみなしたときの電気容量を C4C_4 とすると

v2=Q2C4=Qd2εL2 v_2 = \dfrac{\dfrac{Q}{2}}{C_4} = \dfrac{Q d}{2 \varepsilon L^2}

また,金属板の電位 VmV_m' は,I(1)と同様にして

Vm=Q2C2=Qd2εL2 V_m' = - \dfrac{\dfrac{Q}{2}}{C_2} = - \dfrac{Q d}{2 \varepsilon L^2}

z=z1z = z_1 から z=dz = -d まで,電場は zz 軸負の方向を向いているので,下電極を基準としたときの上電極の電位 VuV_u

Vu=v1+v2+Vm=Qz12ε0L2+Qd2εL2Qd2εL2=Q2ε0L2(h018Q2kε0L2) \begin{aligned} V_u &= v_1 + v_2 + V_m \\ &= \dfrac{Q z_1}{2 \varepsilon_0 L^2} + \dfrac{Q d}{2 \varepsilon L^2} - \dfrac{Q d}{2\varepsilon L^2} \\ &= \dfrac{Q}{2 \varepsilon_0 L^2} \left( h_0 - \dfrac{1}{8} \dfrac{Q^2}{ k \varepsilon_0 L^2} \right) \end{aligned}

(別解)スイッチを切る前まで,z=0z = 0 の上電極と (z=2dz = -2d の) 下電極とが導線でつながれていたので,このとき上電極と下電極の電位は等しく0になっています。電荷の移動が終わったのちスイッチを切り,上電極を zz 軸正の方向に動かしても,2dz0-2d \leq z \leq 0 で電場は変わらないため,このときも z=0z = 0 の電位は0となっています。すなわち,求める電位は v1v_1 に等しく,

Vu=v1=Qz12ε0L2=Q2ε0L2(h018Q2kε0L2) V_u = v_1 = \dfrac{Q z_1}{2 \varepsilon_0 L^2} = \dfrac{Q}{2 \varepsilon_0 L^2} \left( h_0 - \dfrac{1}{8} \dfrac{Q^2}{ k \varepsilon_0 L^2} \right)

と求められます。

大問II

(1)(ア)の状態で定常状態となったとき,上電極および下電極に蓄えられる電荷はIの結果より Q2\dfrac{Q}{2} となります。

tp24-2-2-1-1

(イ)のあと,上電極が位置 zz にある場合の,上電極にはたらく力を考えてみましょう。

tp24-2-2-1-2

上電極にはたらく力は,ばねの慣性力 FF,上電極の重力 mgmg,クーロン力 fQf_Q となります。Iと同様に考えることで,FFzz 軸上向きを正として,

F=k{l0+(h0z)} F = k \{l_0 + (h_0 - z) \}

また fQf_Qzz 軸上向きを正として,

fQ=12Q2E=18Q2ε0L2 f_Q = \dfrac{1}{2} \dfrac{Q}{2} E = \dfrac{1}{8} \dfrac{Q^2}{ \varepsilon_0 L^2}

とそれぞれ表すことができます。

これらより,上電極の運動方程式は

mz¨=k{l0+(h0z)}mgfQ=k(zh0+fQk)=k(zz1) \begin{aligned} m \ddot{z} &= k \{l_0 + (h_0 - z) \} - mg - f_Q \\ &= -k \left( z - h_0 + \dfrac{f_Q}{k} \right) \\ &= -k (z - z_1) \end{aligned}

この式と,ばねの単振動についての考察 (ばねの単振動の解説) より,上電極は z=z1z = z_1 を中心とした単振動をすることがわかります。初め上電極は静止していたことから,z=0z = 0 は単振動の最下点であることがわかるので,この単振動の振幅 AAA=z1A = z_1 であることがわかります。

上昇を始めてから上電極の速度が0になるのは,上電極が単振動の最上点にやってきたときになります。したがって,

h1=2A+0=2z1=2(h018Q2kε0L2) h_1 = 2 A + 0 = 2 z_1 = 2 \left( h_0 - \dfrac{1}{8} \dfrac{Q^2}{ k \varepsilon_0 L^2} \right)

と求められます。

(2)スイッチをつないでから発熱が止むまで,エネルギー保存則が成り立ちます。系の位置エネルギーおよびばねが蓄えるエネルギーは発熱の過程で変わらないので,コンデンサーが蓄える静電エネルギーの変化が発熱量の合計 WW になります (熱力学第一法則|仕事と内部エネルギーの関係)。

スイッチをつないだ直後および発熱が止んだときの系の静電エネルギーを,それぞれ U1,U2U_1, U_2 とします。

tp24-2-2

上図のようにコンデンサーの電気容量をそれぞれ C5,C6,C7C_5, C_6, C_7 とすると,それぞれ

C5=ε0L2h1,C6=C7=εL2d C_5 = \dfrac{\varepsilon_0 L^2}{h_1}, C_6 = C_7 = \dfrac{\varepsilon L^2}{d}

と書くことができます。

これより U1U_1

U1=12(Q2)2C5+12(Q2)2C6+12(Q2)2C7=18Q2h1ε0L2+14Q22dεL2 \begin{aligned} U_1 &= \dfrac{1}{2} \dfrac{\left( \dfrac{Q}{2} \right)^2}{C_5} + \dfrac{1}{2} \dfrac{\left( \dfrac{Q}{2} \right)^2}{C_6} + \dfrac{1}{2} \dfrac{\left( \dfrac{Q}{2} \right)^2}{C_7} \\ &= \dfrac{1}{8} \dfrac{Q^2 h_1}{\varepsilon_0 L^2} + \dfrac{1}{4} \dfrac{Q^2 2d}{\varepsilon L^2} \end{aligned}

次に U2U_2 を考えます。スイッチをつないでから定常状態になったときに,上電極の蓄える電荷が Q10\dfrac{Q}{10} となったとき,電荷量保存則より,下電極の蓄える電荷は910Q\dfrac{9}{10} Q となります。したがって

U2=12(Q10)2C5+12(Q10)2C6+12(910Q)2C7=1200Q2h1ε0L2+41100Q2dεL2 \begin{aligned} U_2 &= \dfrac{1}{2} \dfrac{\left( \dfrac{Q}{10} \right)^2}{C_5} + \dfrac{1}{2} \dfrac{\left( \dfrac{Q}{10} \right)^2}{C_6} + \dfrac{1}{2} \dfrac{\left( \dfrac{9}{10} Q \right)^2}{C_7} \\ &= \dfrac{1}{200} \dfrac{Q^2 h_1}{\varepsilon_0 L^2} + \dfrac{41}{100} \dfrac{Q^2 d}{\varepsilon L^2} \end{aligned}

エネルギー保存則より,求める発熱量の合計 W1W_1

W1=U1U2=325Q2h1ε0L2425Q2dεL2=125Q2L2(3h1ε04dε) \begin{aligned} W_1 &= U_1 - U_2 \\ &= \dfrac{3}{25} \dfrac{Q^2 h_1}{\varepsilon_0 L^2} - \dfrac{4}{25} \dfrac{Q^2 d}{\varepsilon L^2} \\ &= \dfrac{1}{25} \dfrac{Q^2}{L^2} \left( \dfrac{3 h_1}{\varepsilon_0} - \dfrac{4 d}{\varepsilon} \right) \end{aligned}

(3)再びスイッチを開いてから,上電極・下電極が蓄える電荷量は不変で,それぞれ Q10,9Q10\dfrac{Q}{10}, \dfrac{9Q}{10} となります。

おもりの質量を MM とし,おもりと上電極の系の運動方程式を考えます。

tp24-2-2-3

前問II(1)と同様に考えると,この系にはたらく力はばねの慣性力,系の重力,上電極が受けるクーロン力 fQf_Q'となります。

ここで,上電極にはたらく電場 EE'

E=Q10ε0L2=Q10ε0L2 E' = \dfrac{\dfrac{Q}{10}}{\varepsilon_0 L^2} = \dfrac{Q}{10 \varepsilon_0 L^2}

であるので,コンデンサーの極板間引力の公式より

fQ=12Q10E=1200Q2ε0L2 f_Q' = \dfrac{1}{2} \dfrac{Q}{10} E' = \dfrac{1}{200} \dfrac{Q^2}{\varepsilon_0 L^2}

したがって,系が位置 zz にあるときの運動方程式は

mz¨=k(l0+h0z)(M+m)gfQ=k(zh0+Mgk+1200Q2kε0L2) \begin{aligned} m \ddot{z} &= k (l_0 + h_0 - z) - (M + m) g - f_Q' \\ &= -k \left( z - h_0 + \dfrac{Mg}{k} + \dfrac{1}{200} \dfrac{Q^2}{k \varepsilon_0 L^2} \right) \end{aligned}

したがって,系は位置 z=z2=h0Mgk1200Q2kε0L2z = z_2 = h_0 - \dfrac{Mg}{k} - \dfrac{1}{200} \dfrac{Q^2}{k \varepsilon_0 L^2} を中心とした単振動をすることがわかります。

上電極が下降を始めてから速度が0になった位置が z=0z = 0 であることより,この単振動はII(1)の単振動と運動の範囲が一致していることがわかります。したがって,II(1)の単振動と中心が一致していなければなりません。

したがって

z2=z1 z_2 = z_1

h0Mgk1200Qkε0L2=h018Q2kε0L2 \therefore h_0 - \dfrac{Mg}{k} - \dfrac{1}{200} \dfrac{Q}{k \varepsilon_0 L^2} = h_0 - \dfrac{1}{8} \dfrac{Q^2}{ k \varepsilon_0 L^2}

M=325Q2gε0L2 \therefore M = \dfrac{3}{25} \dfrac{Q^2}{g \varepsilon_0 L^2}

(注)MM が正しく質量の次元になっているかを確認します。上式より

Mg=325Q2ε0L2 Mg = \dfrac{3}{25} \dfrac{Q^2}{ \varepsilon_0 L^2}

右辺の次元は,極板間引力の次元と一致しているので,左辺の次元も力の次元と一致します。したがって,MM は質量の次元となっています。

(4)おもりを取り除いてスイッチを閉じてから発熱がやむまで,エネルギー保存則が成り立ちます。したがって,(2)同様,静電エネルギーの変化を考えれば,(キ)→(ア)の過程での発熱量の合計 W2W_2 がわかります。1サイクルでの抵抗の発熱量の合計 WtotW_{tot} は,Wtot=W1+W2W_{tot} = W_1 + W_2 として求めることができます。

では,W2W_2 を求めていきましょう。

tp24-2-2-4

スイッチを閉じた直後と発熱が止んだときの系の静電エネルギーをそれぞれ U3,U4U_3, U_4 とします。

上図で示されている上電極と金属板,および金属板と下電極はそれぞれコンデンサーとみなせ,その静電容量 CC

C=εL2d C = \dfrac{\varepsilon L^2}{d}

と表せることに注意します。上図より

U3=12(Q10)2C+12(9Q10)2C=41100Q2C \begin{aligned} U_3 &= \dfrac{1}{2} \dfrac{\left( \dfrac{Q}{10} \right)^2}{C} + \dfrac{1}{2} \dfrac{\left( \dfrac{9Q}{10} \right)^2}{C} \\ &= \dfrac{41}{100} \dfrac{Q^2}{C} \end{aligned}

U4=12(Q2)2C+12(Q2)2C=25100Q2C \begin{aligned} U_4 &= \dfrac{1}{2} \dfrac{\left( \dfrac{Q}{2} \right)^2}{C} + \dfrac{1}{2} \dfrac{\left( \dfrac{Q}{2} \right)^2}{C} \\ &= \dfrac{25}{100} \dfrac{Q^2}{C} \end{aligned}

これより W2W_2

W2=U3U4=425Q2C=425Q2dεL2 \begin{aligned} W_2 &= U_3 - U_4 \\ &= \dfrac{4}{25} \dfrac{Q^2}{C} = \dfrac{4}{25} \dfrac{Q^2 d}{\varepsilon L^2} \end{aligned}

ゆえに,1サイクルでの抵抗の発熱量の合計 WtotW_{tot}

Wtot=W1+W2=125Q2L2(3h1ε04dε)+425Q2dεL2=325Q2h1ε0L2 \begin{aligned} W_{tot} &= W_1 + W_2 \\ &= \dfrac{1}{25} \dfrac{Q^2}{L^2} \left( \dfrac{3 h_1}{\varepsilon_0} - \dfrac{4 d}{\varepsilon} \right) + \dfrac{4}{25} \dfrac{Q^2 d}{\varepsilon L^2} \\ &= \dfrac{3}{25} \dfrac{Q^2 h_1}{\varepsilon_0 L^2} \end{aligned}

と求められます。

(別解)1サイクル全体でのエネルギーの流れを考えます。系全体と外部とのエネルギーのやり取りは,外部からおもり(の位置エネルギー)を加えることと,抵抗からの発熱の2つのみです。したがって,エネルギー保存則より

Wtot=Mgh1=325Q2h1ε0L2 \begin{aligned} W_{tot} &= M g h_1 \\ &= \dfrac{3}{25} \dfrac{Q^2 h_1}{\varepsilon_0 L^2} \end{aligned}

と求められます。

分母・分子ともに文字が複数登場するため,計算が煩雑になりがちです。