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コンプトン効果/散乱における波長の伸びの導出過程

更新日時 2021/06/08

今回はコンプトン効果(コンプトン散乱)について解説します。

コンプトン散乱におけるエネルギー保存則と運動量保存則を用いた問題は高校物理の頻出の問題です。

本記事では, コンプトン効果の定義と, コンプトン散乱におけるエネルギーと運動量の変化から散乱前後の波長の変化 Δλ\Delta \lambda の導出過程を丁寧に解説します。

目次
  • コンプトン効果/コンプトン散乱とは

  • コンプトン効果の波長の伸び Δλ\Delta \lambda の導出

コンプトン効果/コンプトン散乱とは

コンプトン効果は, アーサー・コンプトン(米, 1892-1962)によって発見されました。コンプトンはコンプトン効果の発見の功績により, 1927年にノーベル物理学賞を受賞しました。

コンプトン効果とは以下のような現象のことです。

コンプトン効果

X線(入射X線)を物質に当てると散乱が起こり, 散乱X線が発生します。ここで入射X線と散乱X線のエネルギー(波長)を比べると, 散乱X線の方がエネルギーが低くなります。(散乱X線の波長は長くなります。)

この現象をコンプトン効果といいます。

式で表すと以下のようになります。

E0>E1λ0<λ1 \begin{aligned} E_0 &> E_1 \\ \lambda_0 &< \lambda_1 \\ \end{aligned}

E0:E_0 : 入射X線のエネルギー

E1:E_1 : 散乱X線のエネルギー

λ0:\lambda_0 : 入射X線の波長

λ1:\lambda_1 : 入射X線の波長

コンプトン効果による散乱をコンプトン散乱といいます。

コンプトン効果を図に表すと以下のようになります。

コンプトン効果の定義

コンプトンは入射X線と散乱X線の波長を測定すると, 波長が伸びていることを発見したのです

エネルギーと波長(振動数)の関係

光のエネルギーと波長(振動数)には, 以下のような関係があります。

エネルギーと波長(振動数)の関係

E=hν=hcλ E = hν =\dfrac{hc}{λ}

hh : プランク定数

νν (ニュー) : 振動数

λλ (ラムダ) : 波長

これより, 波長が短いほどエネルギーが大きいことがわかります。

コンプトン効果により入射X線の波長 λ0\lambda_0 よりも散乱X線の波長 λ1\lambda_1 が長いことから, コンプトン効果によってX線のエネルギーが小さくなっているといえます。

逆コンプトン効果

上記で説明したコンプトン効果とは異なり, 入射X線よりも散乱X線のエネルギーが大きく, 波長が短くなる場合があります。

この現象を逆コンプトン効果といいます。

逆コンプトン効果は, 電子の運動エネルギーが光子のエネルギーに吸収されるために起きる現象です。散乱前の電子のエネルギーが大きく, 光子のエネルギーが小さい(マイクロ波や赤外線)の場合に生じます。

※発展的な内容のため, 高校物理では扱わない内容です。

コンプトン効果の波長の伸び Δλ\Delta \lambda の導出

コンプトンは, 散乱前後の波長の伸び Δλ\Delta \lambda がどのくらいか計算で求めようとしました。そのためにコンプトン散乱において, 以下のことが成り立つと考えます。

  • X線を光子という粒子の流れと考える(光の粒子性)
  • X線の光子1個が電子1個に衝突する場合を考える
  • 衝突前後で, エネルギー保存則と運動量保存則が成り立つと考える

上記の仮定のもと, Δλ\Delta \lambda を求めるために以下のように計算を進めていきます。

光子の運動量の導出方法

まず, 光子の運動量について考えます。一般に運動量 pp は速度 vv と質量 mm を用いて, p=mv p = mv

となります。光子は光速 cc の速度で運動します。ここで問題なのが, 光子は質量を持たないという点です。光子の運動量を表すために以下のような式変形を考えます。

光子1個のエネルギーを EpE_p[J], プランク定数を hh [J・s], 光子の振動数を ν\nu [Hz], 光子の波長をλ\lambda [m], 光速 cc [m/s]とすると,

Ep=hν=hcλ E_p = h\nu= \dfrac{hc}{\lambda}

という関係が成り立ちます。また, 光子1個の質量を mpm_p と仮定し, 相対性理論の式 E=mc2E =mc^2 を左辺に代入すると,

mpc2=hνmpc=hνc \begin{aligned} m_pc^2 &= h\nu \\ m_pc &= \dfrac{h\nu}{c} \\ \end{aligned}

となります。mpcm_p c は運動量を表すので, 光子1個の運動量 ppp_p は質量 mpm_p を用いず,以下のように書くことができます。

光子1個の運動量

pp=hνc=hλ p_p = \dfrac{h\nu}{c} = \dfrac{h}{\lambda}

エネルギー保存則と運動量保存則を考える

コンプトンは, コンプトン散乱前後でエネルギー保存則と運動量保存則が成り立つと考えました。

X線の光子1個が物質中の電子1個に衝突し, 跳ね飛ばす場面を考えます。

エネルギー保存則

X線線のエネルギーは hcλ\dfrac{hc}{\lambda}, 電子の運動エネルギーは 12mv2\dfrac{1}{2} m v^2 となります。電子は衝突前は静止しているため, 運動エネルギーがありません。

コンプトン散乱のエネルギー保存則

衝突前 衝突後
光子 hcλ\dfrac{hc}{\lambda} hcλ\dfrac{hc}{\lambda '}
電子 00 (静止) 12mv2\dfrac{1}{2} m v^2

以下のようなエネルギー保存則が成り立ちます。

hcλ+0=hcλ+12mv2 \dfrac{hc}{\lambda} + 0= \dfrac{hc}{\lambda '} + \dfrac{1}{2} m v^2

以後の計算で使いやすくするために, 式変形し, 両辺に 2m2m をかけると,

12mv2=hcλhcλ(mv)2=2m(hcλhcλ) \begin{aligned} \dfrac{1}{2} m v^2 &= \dfrac{hc}{\lambda} - \dfrac{hc}{\lambda '}\\ (mv)^2 &= 2m\left(\dfrac{hc}{\lambda} - \dfrac{hc}{\lambda '}\right) \end{aligned}

となります。この式を①とします。

運動量保存則

次に運動量保存則について考えます。光子と電子が衝突後, 光子はx軸に対して角度 θ\theta で, 電子は角度 φ\varphi で散乱します。

そのため, 運動量をx軸(入射X線方向)とy軸(入射X線と垂直方向)に分解して, それぞれの方向で運動量保存則が成り立つと考えます。

コンプトン効果の運動量保存則

コンプトン効果の運動量分解

  • x方向の運動量
衝突前 衝突後
光子(x方向) hλ\dfrac{h}{\lambda} hcλcosφ\dfrac{hc}{\lambda '} \cos{\varphi}
電子(x方向) 00 (静止) mvcosθmv \cos{\theta}

x方向(入射X線方向)の運動量保存則は以下のようになります。

hλ+0=hcλcosφ+mvcosθ \dfrac{h}{\lambda} + 0 =\dfrac{hc}{\lambda '} \cos{\varphi} + mv \cos{\theta}

  • y方向の運動量
衝突前 衝突後
光子(y方向) 00 hcλsinφ\dfrac{hc}{\lambda '} \sin{\varphi}
電子(y方向) 00 (静止) mvsinθmv \sin{\theta}

y方向(入射X線と垂直方向)の運動量保存則は以下のようになります。

0=hcλsinφmvsinθ 0 = \dfrac{hc}{\lambda '} \sin{\varphi} - mv \sin{\theta}

2式を変形します。x方向の運動量の式を変形し, 両辺を二乗します。

mvcosθ=hλhλcosϕ(mv)2cos2θ=(hλhλcosϕ)2 \begin{aligned} mv \cos{\theta} &= \dfrac{h}{\lambda} - \dfrac{h}{\lambda '}\cos{\phi} \\ (mv)^2 \cos^2{\theta} &= \left(\dfrac{h}{\lambda} - \dfrac{h}{\lambda '}\cos{\phi} \right)^2 \\ \end{aligned}

同様にy方向の運動量の式を変形し, 両辺を二乗します。

mvsinθ=hλsinϕ(mv)2sin2θ=(hλsinϕ)2 \begin{aligned} mv \sin{\theta} &= \dfrac{h}{\lambda '}\sin{\phi} \\ (mv)^2 \sin^2{\theta} &= \left( \dfrac{h}{\lambda '}\sin{\phi} \right)^2 \\ \end{aligned}

変形した2式の和を取り, cos2θ+sin2θ=1\cos^2{\theta} + \sin^2{\theta} = 1 を用いると,

(mv)2cos2θ+(mv)2sin2θ=(hλhλcosϕ)2+(hλsinϕ)2(mv)2=(hλhλcosϕ)2+(hλsinϕ)2 \begin{aligned} (mv)^2 \cos^2{\theta} + (mv)^2 \sin^2{\theta} &= \left(\dfrac{h}{\lambda} - \dfrac{h}{\lambda '}\cos{\phi} \right)^2 + \left( \dfrac{h}{\lambda '}\sin{\phi} \right)^2 \\ (mv)^2 &= \left(\dfrac{h}{\lambda} - \dfrac{h}{\lambda '}\cos{\phi} \right)^2 + \left( \dfrac{h}{\lambda '}\sin{\phi} \right)^2 \\ \end{aligned}

となります。この式を②とします。

波長の伸び Δλ\Delta \lambda の導出

エネルギー保存則から求めた①と運動量保存則から求めた②を等号で結ぶと,

2m(hcλhcλ)=(hλhλcosϕ)2+(hλsinϕ)2 2m\left(\dfrac{hc}{\lambda} - \dfrac{hc}{\lambda '}\right) = \left(\dfrac{h}{\lambda} - \dfrac{h}{\lambda '}\cos{\phi} \right)^2 + \left( \dfrac{h}{\lambda '}\sin{\phi} \right)^2

が成り立ちます。右辺の各項を h2h^2 でくくると,

2mhc(1λ1λ)=h2(1λ1λcosϕ)2+h2(1λsinϕ)2 2mhc\left(\dfrac{1}{\lambda} - \dfrac{1}{\lambda '}\right) = h^2\left(\dfrac{1}{\lambda} - \dfrac{1}{\lambda '}\cos{\phi} \right)^2 + h^2 \left( \dfrac{1}{\lambda '}\sin{\phi} \right)^2

となります。両辺を h2h^2 で割り, cos2ϕ+sin2ϕ=1\cos^2{\phi} + \sin^2{\phi} = 1 を用いると,

2mch(1λ1λ)=(1λ1λcosϕ)2+(1λsinϕ)2=(1λ)22(1λ)(1λcosϕ)+(1λcosϕ)2+(1λsinϕ)2=(1λ)22(1λ)(1λcosϕ)+(1λ)2 \begin{aligned} \dfrac{2mc}{h} \left(\dfrac{1}{\lambda} - \dfrac{1}{\lambda '}\right) &= \left(\dfrac{1}{\lambda} - \dfrac{1}{\lambda '}\cos{\phi} \right)^2 + \left( \dfrac{1}{\lambda '}\sin{\phi} \right)^2 \\ &= \left(\dfrac{1}{\lambda}\right)^2 -2\left(\dfrac{1}{\lambda}\right)\left(\dfrac{1}{\lambda '}\cos{\phi} \right) + \left(\dfrac{1}{\lambda '}\cos{\phi}\right)^2 +\left( \dfrac{1}{\lambda '}\sin{\phi} \right)^2 \\ &= \left(\dfrac{1}{\lambda}\right)^2 -2\left(\dfrac{1}{\lambda}\right)\left(\dfrac{1}{\lambda '}\cos{\phi} \right) + \left(\dfrac{1}{\lambda '}\right)^2 \\ \end{aligned}

となります。ここで, 右辺に +2(1λ)(1λ)2(1λ)(1λ)+2\left(\dfrac{1}{\lambda}\right)\left(\dfrac{1}{\lambda '}\right) -2\left(\dfrac{1}{\lambda}\right)\left(\dfrac{1}{\lambda '}\right) を加えると*,

2mch(1λ1λ)=(1λ)2+(1λ)2(2λλcosϕ)+2(1λ)(1λ)2(1λ)(1λ)=(1λ1λ)2+2λλ(1cosϕ) \begin{aligned} \dfrac{2mc}{h}\left(\dfrac{1}{\lambda} - \dfrac{1}{\lambda '}\right) &= \left(\dfrac{1}{\lambda}\right)^2 + \left(\dfrac{1}{\lambda '}\right)^2-\left(\dfrac{2}{\lambda \lambda '}\cos{\phi} \right) +2\left(\dfrac{1}{\lambda}\right)\left(\dfrac{1}{\lambda '}\right) -2\left(\dfrac{1}{\lambda}\right)\left(\dfrac{1}{\lambda '}\right) \\ &= \left(\dfrac{1}{\lambda} - \dfrac{1}{\lambda '} \right)^2 + \dfrac{2}{\lambda \lambda '}\left(1-\cos{\phi}\right) \end{aligned}

となります。

*この操作を行った理由は, (1λ1λ)2\left(\dfrac{1}{\lambda} - \dfrac{1}{\lambda '} \right)^2 を作るためです。

上式のカッコ内を計算しすると,

2mch(λλλλ)=(λλλλ)2+2λλ(1cosϕ) \begin{aligned} \dfrac{2mc}{h}\left(\dfrac{\lambda ' - \lambda}{\lambda \lambda'} \right) &= \left(\dfrac{\lambda ' - \lambda}{\lambda \lambda'} \right)^2+ \dfrac{2}{\lambda \lambda '} \left(1-\cos{\phi}\right) \\ \end{aligned}

となります。ここで, λ\lambdaλ\lambda' の差は極めて小さく, (λλ)20(\lambda - \lambda ')^2\approx 0 であると考えます。ただし, λλ0\lambda - \lambda '\neq 0 です。光子の運動量を表すために以下のような式変形を考えます。

すると, 上式の右辺第一項は消えて, 以下のように計算ができます。

2mch(λλλλ)=(λλλλ)2+2λλ(1cosϕ)mch(λλ)=(1cosϕ)(λλ)=hmc(1cosϕ) \begin{aligned} \dfrac{2mc}{h}\left(\dfrac{\lambda ' - \lambda}{\lambda \lambda'} \right) &= \left(\dfrac{\lambda ' - \lambda}{\lambda \lambda'} \right)^2+ \dfrac{2}{\lambda \lambda '}\left(1-\cos{\phi}\right) \\ \dfrac{mc}{h}\left(\lambda ' - \lambda\right) &= \left(1-\cos{\phi}\right) \\ \left(\lambda ' - \lambda\right) &= \dfrac{h}{mc}\left(1-\cos{\phi}\right) \\ \end{aligned}

ここで, 波長の伸びを Δλ=λλ\Delta \lambda = \lambda ' - \lambda と置くと, コンプトン効果における波長の伸びは以下のように決まります。

コンプトン効果における波長の伸び

Δλ=hmc(1cosϕ) \Delta \lambda = \dfrac{h}{mc}\left(1-\cos{\phi}\right)

  • プランク定数 h=6.6×1034[Js]h = 6.6 \times 10^{-34} \mathrm{[J \cdot s]}

  • 光速 c=3.0×108[m/s]c = 3.0 \times 10^{8} \mathrm{[m / s]}

  • 粒子の質量 m[kg]m \mathrm{[kg]}

コンプトンの功績

コンプトンは, 計算で求めた波長の伸び Δλ\Delta \lambda と, 実験で測定した入射X線と散乱X線の差がよく一致していることを確認しました。

したがって, X線を光子の流れと捉え, エネルギー保存則や運動量保存則が成り立つと考えられることを証明しました。(光の粒子性)

当時, 光電効果の発見により証明されつつあった光量子仮説(光が波動かつ粒子である)を後押しする結果となりました。

→光電効果

電子のコンプトン波長

コンプトン効果における波長の伸び

Δλ=hmc(1cosϕ) \Delta \lambda = \dfrac{h}{mc}\left(1-\cos{\phi}\right)

の右辺においてh,m,ch, m, cは定数のためコンプトン効果における波長の伸びは散乱角 ϕ\phi に依存します。

散乱角 ϕ\phi が大きくなるにつれて, Δλ\Delta \lambda は大きくなります。散乱角 ϕ=π2\phi = \dfrac{\pi}{2} の場合の Δλ\Delta \lambdaコンプトン波長といいます。

ϕ\phi Δλ\Delta \lambda 備考
00 00 最小
0<ϕ<π20<\phi<\dfrac{\pi}{2} 0<Δλ<hmc0 < \Delta \lambda<\dfrac{h}{mc}
π2\dfrac{\pi}{2} hmc\dfrac{h}{mc} コンプトン波長
π2<ϕ<π\dfrac{\pi}{2}<\phi<\pi hmc<Δλ<2hmc\dfrac{h}{mc} < \Delta \lambda<\dfrac{2h}{mc}
π\pi 2hmc\dfrac{2h}{mc} 最大

また, 電子の質量 me=9.1×1031[kg]m_e = 9.1 \times 10^{-31} \mathrm{[kg]} を用いて, このときのコンプトン波長(ϕ=π2\phi = \dfrac{\pi}{2})について考えると, 以下のようになります。

Δλ=6.6×1034(9.1×1031)×(3.0×108)×(10)=2.29.1×10112.4×1012 \begin{aligned} \Delta \lambda &= \dfrac{6.6 \times 10^{-34}}{(9.1 \times 10^{-31}) \times (3.0 \times 10^{8})}\times( 1-0) \\ &= \dfrac{2.2}{9.1} \times 10^{-11} \\ &\simeq 2.4 \times 10^{-12} \end{aligned}

Δλ=2.4×1012\Delta \lambda = 2.4 \times 10^{-12} [m] は電子のコンプトン波長といいます。

コンプトン散乱におけるエネルギー保存則と運動量保存則(成分分割)は頻出の問題のため, よく復習しておきましょう。

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