全反射の要点と, 臨界角の計算方法

この記事では, 反射の一種である全反射の原理について解説します。

全反射とは

全反射とは反射の一種であり, 光の入射角がある一定の角度以上になるとすべての光が反射する現象を指します。

その「一定の角度」のことを臨界角と言い, これが屈折波が存在するような最小の入射角です。

は, こちらを先にご覧ください。

「屈折の法則」の知識がこの記事では前提となります。

反射・屈折について知りたい方や, 屈折の法則が曖昧な方は先にこちらをご覧ください。

→反射の法則・屈折の法則

屈折の法則は常に成り立つのか?

屈折の法則は常に成り立つのでしょうか?

全反射の図

屈折率が n1n_1, 光速が c1c_1 の媒質から, 屈折率が n2n_2, 光速が c2c_2 の媒質に光が入射するときを考えてみましょう。

入射角を θ1\theta_1 , 屈折角を θ2\theta_2 と置くと, 屈折の法則より

n1sinθ1=n2sinθ2 n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2

が成り立ちます。屈折率 θ2\theta_2 について考えると

sinθ2=n1n2sinθ1(A) \sin\theta_2 = \dfrac{n_1}{n_2}\sin\theta_1 \tag{A}

となります。

ここで気がつくべきことは, 式(A)の右辺が 11 よりも大きくなる可能性があるということです。

左辺 sinθ2\sin\theta_2 の最大値は 11 ですから, 式(A)は数学的に成り立たない場合がありそうです。

このとき, 屈折の法則は破綻し, 屈折角 θ2\theta_2 は存在しないことになります。

場合分けをしながら, 数式が破綻するときの物理現象について理解しましょう。

屈折率が小さい媒質から大きい媒質に入射するとき

n1<n2    n1n2<1n_1 < n_2 \iff \dfrac{n_1}{n_2} < 1

のときを考えてみましょう。

具体的には光が「空気中→水中」に進行する場合などが例に挙げられます。

式(A)に戻ると, sinθ1\sin\theta_1 の係数が 11 未満であることから

sinθ2=n1n2sinθ1<1 \sin\theta_2 = \dfrac{n_1}{n_2}\sin\theta_1 < 1

という大小関係が成立します。

すなわち, どれだけ入射角 θ1  (0θπ2)\theta_1 \; \left( 0\leqq \theta \leqq \dfrac{\pi}{2} \right) を変化させても, 数学的に式(A)を満たすような屈折角 θ2\theta_2 が存在します。

したがって, 屈折の法則は破綻せず, 屈折波が必ず存在します。

さらに屈折角 θ2\theta_2 と入射角 θ1\theta_1 の大小関係に注目すると

sinθ2sinθ1=n1n2<1 \dfrac{\sin\theta_2}{\sin\theta_1} = \dfrac{n_1}{n_2} < 1

より, θ1>θ2\theta_1 > \theta_2 が成立します。

すなわち, 屈折角は入射角より小さくなることが特徴です。

屈折率が大きい媒質から小さい媒質に入射するとき

今度は逆に

n1>n2    n1n2>1n_1 > n_2 \iff \dfrac{n_1}{n_2} > 1

のときを考えてみましょう。

具体的には光が「水中→空気中」に進行する場合などが例に挙げられます。

式(A)に戻ると, sinθ1\sin\theta_1 の係数は 11 より大きいため

sinθ2=n1n2sinθ1 \sin\theta_2 = \dfrac{n_1}{n_2}\sin\theta_1

の右辺は必ずしも 11 より小さいとは限りません。

つまり, 入射角 θ1\theta_1 によって右辺が 11 より小さくなったり大きくなったりします。

(ア)右辺が 11 よりも小さい場合

すなわち

n1n2sinθ1<1    sinθ1<n2n1 \begin{aligned} \dfrac{n_1}{n_2}\sin\theta_1 &< 1 \\ \iff \sin\theta_1 &< \dfrac{n_2}{n_1} \end{aligned}

のときです。

このとき, 対応する反射角 θ2\theta_2 が存在し, 屈折波が必ず存在します。

(イ)右辺が 11 よりも大きい場合

すなわち

n1n2sinθ1>1    sinθ1>n2n1 \begin{aligned} \dfrac{n_1}{n_2}\sin\theta_1 &> 1 \\ \iff \sin\theta_1 &> \dfrac{n_2}{n_1} \end{aligned}

のときです。

このとき, 屈折角 θ2\theta_2 が存在しません。

物理的には入射角は屈折することなく, 全て反射するという現象が起きます。

この現象を全反射といいます。

場合(ア)(イ)のちょうど境目になるよな入射角を臨界角と言います。

臨界角 θc\theta_c は以下の条件を満たします。

sinθc=n2n1 \sin\theta_c = \dfrac{n_2}{n_1}

さらに屈折角 θ2\theta_2 と入射角 θ1\theta_1 の大小関係に注目すると

sinθ2sinθ1=n1n2>1 \dfrac{\sin\theta_2}{\sin\theta_1} = \dfrac{n_1}{n_2} > 1

より, θ2>θ1\theta_2 > \theta_1 が成立します。

すなわち, 屈折角は入射角より大きくなることが特徴で, 全反射はこのような屈折角と入射角の関係が満たされる場合にのみに観測できる現象です。

全反射の要点

全反射については以下の要点を理解しておきましょう。

全反射の要点
  • 全反射とは, 光の入射角がある角度以上になると,すべての入射波が反射する現象のこと
  • 全反射は屈折率が大きい媒質から小さい媒質に入射するときにのみ起きる
  • 入射角を大きくしていったとき, 全反射がちょうど観測され始める角度を臨界角という
  • 臨界角 θc\theta_c は以下の条件を満たす。

sinθc=n2n1 \sin\theta_c = \dfrac{n_2}{n_1}

特に, 光が「水中→空気中」に進行するとき, n2=1n_2 = 1 であるため

n1sinθc=1 n_1 \sin\theta_c = 1

が成り立ちます。

これは屈折の法則

n1sinθ1=n2sinθ2 n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2

において n1=1,θ2=90n_1 = 1, \theta_2 = 90^{\circ} とした場合に対応します。

全反射がちょうど起きるとき, その屈折角は 9090^{\circ} であり, 水面上を進行します。

全反射の例

全反射は屈折率の大きな物質から屈折率の小さな物質に入射するときに起こりうる現象であると説明しました。

光が「水中→空気中」に進行するときに観測される全反射についての例題です。

例題

図

屈折率 nn の水中にある点光源 LL から空気中に進行する光がある。

図のような位置関係で水面を半径 RR の不透明円盤で覆う。

円盤を繰り返し変更することで, 半径 RR を少しずつ大きくして行ったとき, ある瞬間から点光源 LL からの光が空気中に出てこなくなった。この時の Rh\dfrac{R}{h} を求めよ。

※ただし半径 RR は連続的に変化すると仮定する。

解答

屈折の法則より

nsinθ1=1sinθ2 n\sin \theta_1 = 1\cdot\sin\theta_2 \\

全反射が起きる条件は

nsinθc=1    sinθc=1n \begin{aligned} n \sin\theta_c &= 1 \\ \iff \sin\theta_c &= \dfrac{1}{n} \end{aligned}

三角比から, tanθc=1(1sinθc)21=1n21=37 \begin{aligned} \tan\theta_c &= \dfrac{1}{\sqrt{\left( \dfrac{1}{\sin \theta_c} \right)^2 - 1}} \\ &= \dfrac{1}{\sqrt{n^2-1}} \\ &= \dfrac{3}{\sqrt{7}} \end{aligned}

図より tanθc=2Rh\tan\theta_c = \dfrac{2R}{h} であるので

tanθc=2Rh=37Rh=3714 \tan\theta_c = \dfrac{2R}{h} = \dfrac{3}{\sqrt{7}} \\ \therefore \dfrac{R}{h} = \dfrac{3\sqrt{7}}{14}

全反射は比較的単純な現象です。

屈折の法則とあわせて自分で場合分けの議論ができるようにしておきましょう。

実際に実験して全反射を観察してみましょう。