ベクトルとしての力の合成・分解

物体に対してなんらかの働きかけをし、物体の状態を変えるものを「力」と呼びます。力は力学ではベクトルとして定義されます。よって,ベクトルの足し算は,単純な数の加法計算では表現できません。

この記事では,力の合成・分解について詳しく解説していきます。

力の合成・合力

力はベクトルですので,ベクトルの足し算は数学で習うベクトルの加法に従います。数式上は, C=A+B \boldsymbol{C} = \boldsymbol{A} + \boldsymbol{B}

と表してしまえばそれで終わりですが,図で描こうとすると以下のようになります。

2つのベクトルの和について考えます。2つのベクトルが平行四辺形の隣合う2辺に重なるように平行移動します。平行四辺形の対角線の部分が合力となります。以下の図を参考にしてください。

力の合成の図

2つ以上の力の加算をすることを力の合成と言います。

力のつりあい

ある物体に働く,全ての力の合力が 0\boldsymbol{0}(←これはゼロベクトルです)のとき,力がつりあっていると表現します。力がつり合っている時,質点は,止まっているならば止まり続け,動いているならばその速度を維持し続けます。これを慣性の法則(これについては別の記事で解説します)と言います。

ちなみに,大きさを持つ物体に関しては,力がつり合っているだけでは静止するとは限りません。「力のモーメント」というものも関連してきます。これについても別の記事で解説します。

力の分解

力の分解の図

この図より, C=A+B=A+B \boldsymbol{C} = \boldsymbol{A} + \boldsymbol{B} = \boldsymbol{A'} + \boldsymbol{B'} が成立します。このように力の合成をすると C\boldsymbol{C} になるような力の組み合わせは無限に存在します。

このような組み合わせのうちどれでも良いので,2つ以上の力の合成として,1つの力を分散させて表すことを力の分解といいます。分解後の力を分力と呼びます。

力の分解の練習問題

練習として,xyxy 平面上のあるベクトル F\boldsymbol{F} に対して,力の分解の求め方の一例を示します。

力の分解の練習問題

xx 軸の+側とベクトルのなす角は θ\theta であるとします。このとき,F\boldsymbol{F} は以下の図のように分解することができます。

Fの分解

図より, {Fx=FcosθFy=Fsinθ \begin{cases} \|\boldsymbol{F}_x\| = \|\boldsymbol{F}\| \cos \theta\\ \|\boldsymbol{F}_y\| = \|\boldsymbol{F}\| \sin \theta \end{cases}

長さが 11 で,+x+x 方向,+y+y 方向を向くベクトル(つまり単位ベクトルex,ey\boldsymbol{e_x}, \boldsymbol{e_y} を用いれば, {Fx=FcosθexFy=Fsinθey \begin{cases} \boldsymbol{F}_x = \|\boldsymbol{F}\| \cos \theta \boldsymbol{e_x}\\ \boldsymbol{F}_y = \|\boldsymbol{F}\| \sin \theta \boldsymbol{e_y}\\ \end{cases} とかけて, F=Fx+Fy=Fcosθex+Fsinθey\begin{aligned} \boldsymbol{F} &= \boldsymbol{F_x} + \boldsymbol{F_y}\\ &= \|\boldsymbol{F}\| \cos \theta \boldsymbol{e_x} + \|\boldsymbol{F}\| \sin \theta \boldsymbol{e_y} \end{aligned} と書くことができます。