例えば穴の空いた平面 C\{0} 内の(1∈C\{0} を始点とする)連続閉曲線 をγ1(t)=1,γ2(t)=e2π−1tで定義すると,これはホモトピック(ホモトープ)ではありません.γ1 は「ずっと 1 にいる定値曲線」,γ2 は「単位円周を反時計回りに1周する閉曲線」なので,これらを連続変形して一致させようとするとどうしても「原点に空いた穴」をこえなければならず不可能である,というのが(厳密ではない直感的な)理由です.(厳密な証明は補足を参照.)
一方で,これらを穴の空いていない平面 C 内の曲線と見るとホモトピックです.(穴に引っかかることがないため γ2 を γ1 に連続変形できます.例えば H:[0,1]×[0,1]→C,(s,t)↦se2π−1t+(1−s)という連続写像を考えると H(0,t)=γ1(t),H(1,t)=γ2(t),H(s,0)=H(s,1)=1 だから γ1 と γ2 の間の始点を保つ連続変形(ホモトピー)を与えます.)
このように,2つの閉曲線がホモトピックかどうかには「どの空間上の曲線と見るか」という要素も影響します.空間に穴が空いているとこういうホモトピックでない閉曲線が出現する,という直感を持っておくと有用です.(逆は成り立つか?という疑問もありますが,これはポアンカレ予想みたいな話になります.)
補足
γ1 と γ2 が C\{0}. でホモトピックでないことを示すには位相幾何学の知識が必要です.
- (弧状連結な)位相空間 X の基本群 π1(X) の定義
- 連続写像 f:X→Y が基本群の間の群準同型 f∗:π1(X)→π1(Y) を与えること
- 位相空間のホモトピー同値の定義
- f:X→Y がホモトピー同値を与えるならば f∗:π1(X)→π1(Y) は群の同型であること
- 円周 S1 の基本群 π1(S1) が Z と同型で,同型写像により閉曲線 γ:[0,1]→S1,t→2πt の定める元 [γ]∈π1(S1) が 1∈Z に対応すること(これが最も非自明)
を知っていれば,次の証明を理解できるでしょう.
証明:複素数の偏角をみる連続写像 f:C\{0}→S1:z→argz はホモトピー同値だから,これにより群の同型 f∗:π1(C\{0})→π1(S1)≅Z が与えられる.これにより γ1,γ2 の定める π1(C\{0}) の元 [γ1],[γ2] は Z の 0,1 にそれぞれ対応することが f∗ の定義からわかるから,[γ1],[γ2] は π1(C\{0}) の異なる元である.これは γ1 と γ2 が C\{0}でホモトピックでないことと同値である.
質問者からのお礼コメント
納得できました。ありがとうございます!
ところで、@icedaisukiさんは以前にも僕の質問に回答して頂きましたが、その際お礼コメントができず、不快な思いをさせてしまったと思います。この場を借りてお詫びします。バグでどうしてもコメントができなくなっていました。
また、@icedaisukiさんには僕のその他の質問にも回答して頂いていて、毎度とても感謝しています。非常に分かりやすい説明には感服するばかりです。
また下らないことを質問させていただくかもしれませんが、良ければ回答して頂けると嬉しいです。
長文失礼しました。