行列の最小多項式

定義

行列 AA の最小多項式とは,最高次数の係数が 11 の多項式 ff であって f(A)=Of (A) = O となるもののうち次数が一番小さいものである。

この記事では,線形代数においてとても重要な最小多項式について解説します。

最小多項式の例

例として A=(2003)A = \begin{pmatrix} 2&0\\0&3 \end{pmatrix} の最小多項式を愚直に計算してみます。

  1. 一次式になるか?

f(t)=taf (t) = t - aaa は定数)を考えます。

このとき f(A)=AaI=(2a003a) f (A) = A - aI = \begin{pmatrix} 2-a & 0\\0&3-a \end{pmatrix} これはどのようにしても零行列にはなりません。

よって最小多項式は一次ではありません。

  1. 二次式になるか?

f(t)=t2+at+bf (t) = t^2 + a t + b を考えます。

このとき f(A)=A2+aA+bI=(4+2a+b009+3a+b)\begin{aligned} f (A) &= A^2 + aA + bI\\ &= \begin{pmatrix} 4+2a+b&0\\0&9+3a+b \end{pmatrix} \end{aligned} となるため,連立方程式 {4+2a+b=09+3a+b=0\begin{cases} 4+2a+b=0\\ 9+3a+b=0 \end{cases} を解きましょう。

実際に解くと (a,b)=(5,6)(a,b) = (-5,6) です。

このようにして t25t+6t^2 - 5t + 6 が最小多項式であることが分かりました。

さきほどの1次の計算を元に,以下が成立することも分かります。

最小多項式が一次式である行列は aI (aC)aI\ (a \in \mathbb{C}) という形の行列だけである。

固有多項式との関係

定理

最小多項式は固有多項式の因数である。

ϕ(t)=det(AtI)\phi (t) = \det (A - tI) を固有多項式と呼ぶのでした。

ケーリー・ハミルトンの定理 より ϕ(A)=O\phi (A) = O であることを踏まえると,最小多項式は固有多項式の因数になります。

例のプレイバック

A=(2003)A = \begin{pmatrix} 2&0\\0&3 \end{pmatrix} の固有多項式は ϕ(t)=detAtI=(2t)(3t)=t25t+6\begin{aligned} \phi (t) &= \det | A-tI |\\ & = (2-t)(3-t)\\ &= t^2 -5t + 6 \end{aligned} となります。よって最小多項式の候補は t2t-2t3t-3t25t+6t^2-5t+6 です。

一次多項式が AA の最小多項式にならないことは簡単に計算できます。よって最小多項式は t25t+6t^2-5t+6 であることが分かります。

このように固有多項式との関係を用いると簡単に最小多項式を求めることができます

練習問題

例題

次の行列の最小多項式を求めなさい。

  1. (2002)\begin{pmatrix} 2 & 0\\ 0 & 2 \end{pmatrix}
  2. (2102)\begin{pmatrix} 2&1\\0&2 \end{pmatrix}
  3. (2314)\begin{pmatrix} 2&3\\1&4 \end{pmatrix}
  4. (212151115)\begin{pmatrix} 2 & -1 & 2\\-1 & 5 & -1\\-1 & -1 & 5\end{pmatrix}

例題の解答

1

明らかに t2t - 2 が最小多項式です。

2

固有多項式は 2t102t=(2t)2\begin{vmatrix} 2-t&1\\0&2-t \end{vmatrix} = (2-t)^2 です。

よって最小多項式の候補は t2t^2(t2)2(t-2)^2 となります。一次式にはならないため.(t2)2(t-2)^2 が最小多項式になります。

3

固有多項式は 2t314t=(2t)(4t)3=t26t+5\begin{aligned} &\begin{vmatrix} 2-t&3\\ 1&4-t \end{vmatrix}\\ &= (2-t)(4-t) - 3\\ &= t^2 - 6t + 5 \end{aligned} です。

この場合,最小多項式が一次式にならないため,t26t+5t^2-6t+5 が最小多項式です。

4

行列を AA とおきましょう。

固有多項式を計算すると 2t1215t1115t=(2t)(5t)(5t)+21{(2t)2(5t)+(5t)}=t3+12t245t+54=(t3)2(t6)\begin{aligned} &\begin{vmatrix} 2-t & -1 & 2\\ -1 & 5-t & -1\\ -1 & -1 & 5-t \end{vmatrix}\\ &= (2-t)(5-t)(5-t) +2 - 1\\ &\qquad - \{ (2-t) - 2(5-t) + (5-t) \}\\ &= -t^3 + 12 t^2 - 45 t + 54\\ &= -(t-3)^2 (t-6) \end{aligned} である。

一次ではないのは明らか。

二次であると仮定すると,候補は t26t+9t^2-6t+9t29t+18t^2-9t+18 となります。

A2=3(135294238) A^2 = 3 \begin{pmatrix} 1&-3&5\\ -2&9&-4\\ -2&-3&8 \end{pmatrix} です。

A26A+9I=(36×2+996×(1)156×266×(1)276×5+9126×(1)66×(1)96×(1)246×5+9)=(033066033)O\begin{aligned} &A^2 -6A + 9I\\ &= \begin{pmatrix} 3-6 \times 2 + 9 &-9 -6 \times (-1)&15 - 6 \times 2\\ -6-6 \times (-1) &27 - 6 \times 5 + 9&-12 - 6 \times (-1)\\ -6 - 6 \times (-1) &-9 - 6 \times (-1) &24 - 6 \times 5 + 9 \end{pmatrix}\\ &= \begin{pmatrix} 0 & -3 & 3\\ 0 & 6 & -6\\ 0 & -3 & 3 \end{pmatrix}\\ &\neq O \end{aligned} より t26t+9t^2 - 6t + 9 が最小多項式とはなりません。

同様に計算すると A29A+18I=(303303303) A^2 - 9A + 18I = \begin{pmatrix} 3 & 0 & -3\\ 3 & 0 & -3\\ 3 & 0 & -3 \end{pmatrix} であるため,t29t+18t^2 - 9 t + 18 もまた最小多項式ではありません。

よって t312t2+45t54t^3-12t^2+45t-54 が最小多項式となります。

対角化可能性との関係

最小多項式の応用として次の定理があります。

定理

行列 AA の最小多項式が重解を持たないとき,AA は対角化可能である。

つまり,AA の最小多項式が (ta1)(tan)(t-a_1) \cdots (t-a_n)a1,,ana_1 , \cdots , a_n はすべて異なる)と表せるとき,AA は対角化可能である。

先ほどの例題で登場した (2314)\begin{pmatrix} 2&3\\1&4 \end{pmatrix} の最小多項式は (t1)(t5)(t-1)(t-5) となるため,対角化可能です。

実際,(3111)\begin{pmatrix} 3&1\\1&1 \end{pmatrix} によって (3111)1(2314)(3111)=(1005) \begin{pmatrix} 3&1\\1&1 \end{pmatrix}^{-1} \begin{pmatrix} 2&3\\1&4 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 3&1\\1&1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1&0\\0&5 \end{pmatrix} となり対角化可能です。

最小多項式による対角化可能判定は重要です。